世田谷区では「前例がない」と言われたものの、介護士時代から関係を作ってきた職員をたよりに、シェアハウス検討のための会議体が組まれた。そしてここでも、自分がやろうとしていることを繰り返し説明すると、最後は「何かあったら相談して」と言ってもらえた。
2022年の8月。1棟目の「IDEAL 上祖師谷」をオープンすると、全国から応募や内覧希望などの問い合わせが数百通も届いた。
親が知らなかった本当の「その人らしさ」
施設ではなく、あくまでも「家」として設計したのは、熊谷さんが思い描いていた「暮らし」を大事にしたかったからだ。
毎食納豆を食べなければ気がすまない人は、ヘルパーとともに納豆を買いに行くのが散歩としてルーティンになった。親と離れ、自分の意思で金髪にした入居者もいる。
「親って、『あなたはこれが好きなのよね』っていう聞き方になってしまうから、なかなか希望を聞けていないんです。でもそれがヘルパーだったら、完全にフラットに聞けるんですよね。そうすると思いもよらない答えが出てきて、その人らしさが引き出されるんです」
言葉によるコミュニケーションが難しい子どもの場合は特に、親の中の記憶が、幼い頃のまま止まっていることが多いという。好きだと聞いていたものが実は全然好きではなかったり、ヘルパーと一緒に買い物に行くと、本人がそれまでと違う雰囲気の服を選んだりすることも。
「誰かに見てもらうのは申し訳ない」「この子は私が見なくては」という思いを抱えた親は最初、毎日のように子の元を訪れ、朝から晩まで一緒にいた。しかしだんだん安心して「子離れ」すると、それまで行けなかった美容室に行ったり、何十年かぶりに旅行に行ったりするようになる。
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【「いまだに『楽しい』しかないですね」】
