現状における子育て支援への偏重と、所得や雇用の改善という実質的な少子化対策の軽視は、「結婚したくても収入が低くてできない」「経済的な不安から子どもを作れない」といった層を放置し、すでに生活に余裕がありもともと結婚・子育てが可能な層を優遇する状態を作り出している。
そうなると、同支援金における「給付と負担」の受益負担格差は、ますます絶望と分断を深める象徴的な役割を担うことになってしまいかねない。
例えば、経済学者の小黒一正は、国民が生涯を通じて政府にどれだけの負担をし、受益を得られるかという視点で、世代ごとに推計を行い、1億円以上の格差があることを明らかにしている(『財政危機の深層 増税・年金・赤字国債を問う』NHK出版新書)。
道路・ダムなどの社会資本や、治安・国防、医療・介護などの公共サービスから得られる受益と、そのサービス供給に必要な税金、保険料といった負担などをカウントし、世代ごとに生涯を通じて支払う負担から、生涯に受け取る受益を差し引き、各世代の「生涯純負担」を可視化する試みである。
それによると、60歳以上の世代は約4000万円の受益超過、50代は約990万円の受益超過である一方で、それ以降の世代が純負担となり、40代は約170万円の純負担、30代は約800万円の純負担、20代は約1100万円の純負担となった。
小黒は、「現行制度では、将来世代や若い世代から上の世代へ、富の移転が行われている。その格差は是正されるどころか、どんどん拡大しつつある」と警告を発しているが、受益負担格差の視点から見れば、子ども・子育て支援金も、結果的にこれと同じ「富の移転」と認識されかねない。
受益負担格差は社会の連帯を破壊する
わかりやすく言えば、「非正規雇用や低所得で家族を持つことを諦めた層」から、所得も世帯年収も高い「共働きパワーカップル」へ「富」が移動するというイメージになるだろうか。いびつな受益負担格差は、最終的に相互扶助の意識を失わせかねず、社会の連帯を破壊する要因になり得る。
もちろん、子育てを「社会のインフラ」の観点から見れば、共働きで子どもがいる世帯は、政府などから多額の支援を受けてはいるものの、同時に「次世代の労働力(納税者)」を育てるという多大なコストを負担しているといえる。同支援金は、その「子育ての社会的コスト」の一部を社会全体で分かち合う仕組みだとこども家庭庁も言っている。
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【生活が苦しい独身層を納得させることは難しい】
