男性は自転車を持ち上げてバスの前方にある金具にくくりつけ、家財道具を担いでバスに乗り込んだ。あらかじめバス料金の1ドル75セントを課金してあるスマホアプリを開いてバスの中にある機械にタップしてから乗る。
一番前の席にはポテトチップスを袋から食べている男性がいた。彼の身体は激しく小刻みに揺れ「キョエー!」と奇声を発している。どうやらドラッグ依存症のようだ。この男性からなるべく離れた後方ドアに近い席を見つけて座る。男性の奇声がどんどん大きくなり、ついに彼がふらふらとバスの中を歩き始めた。
同じバス停から乗った例のホームレス男性はすでに一番奥の席に陣取り、家財道具を身体の周りに盾のように配置して安全を確保していた。賢い。目が合うと、彼は首を横に振った。「奇声を発している相手を凝視するな。危ないぞ」という合図だろう。
ドラッグ依存症の乗客に恐怖心が募る
奇声を上げている男性の身体が身体を震わせながら、こちらに近づいてくる。バスの運転手からは見えないだろう後方だけに、ドキドキする。近づいては遠ざかりを繰り返す男性の行動パターンが読めない。乗客全員がスマホから目を上げて、彼の行動を目で追っている。
せっかく乗ったバスを途中で降りたくはない。だが、彼の身体の動きが大きくなると恐怖を感じるレベルになってきた。途中の停留所で何人かが降りた時に「このまま車内に残りたくない」と直感し、一緒に降りてしまった。
ポツンとひとり残された道端のバス停でほっとしたものの、大変なことに気づいた。スマホの電池が切れかかっているではないか。現金を持っていないため、料金をあらかじめチャージしたLAメトロのアプリが使えないと次に来るバスに乗れない。
マイカーではいつも車内でスマホをチャージできることに慣れていたため、うっかり予備のバッテリーを持ってきておらず、絶えずアプリを使ってバスの遅延を確認し、電源を消費してしまったのだ。
周囲を見渡すと、3ブロックほど先にチェーン店のホテルが見えた。ロビーでスマホを充電させてもらえないかと行ってみたが、宿泊客だけしかロビーに入れない構造だった。
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