「Aさんは長年、うつ病を患っていてね。ウチの『休職制度』を利用して、実に7回も休職を繰り返しているんだ。その彼があと1カ月で復職してくるわけだが、現場は彼をどう迎えていいかわからず、組織としても機能不全に陥りかねない。それに、このまま制度の隙間で彼を『飼い殺し』にするのが、本当に本人のためになるのか。萬屋くんはどう思うだろうか」
部長の問いは重かった。単なる人員整理ではない。制度の善意が、結果として1人の社員のキャリアを食いつぶしているという、目を背けたくなるような現実がそこにはあった。
オリンピックのごとく復職する「伝説の男」
当時のわが社には、精神疾患などの事由により最長4年まで休める、手厚すぎる「休職制度」が存在した。さらに、復職して半年間継続してフルタイム出勤ができれば、再び4年間の休職権利が復活するという、いわば“リセット”のルールがあったのだ。
A氏が初めてうつ病を訴えたのは、彼がまだ20代半ばのころ。彼はその制度に従い、4年間みっちりと休養して職場に復帰した。しかし、そこからが常軌を逸していた。
A氏は半年間のフルタイム出勤を終え、休職の権利が復活した途端に、再び「うつ病」との診断を受け、4年の休職に入る。このサイクルを長きにわたり「7回」も繰り返してきたのだから、本当に働く意思があるのか疑問に思う人も少なくないようだった。
社内ではA氏は「オリンピックのように4年に一度戻ってくる」などと、悲しいかな、あまりいい意味ではない“伝説の人物”と揶揄されている。受け入れる現場も、復職のたびに彼をどう扱ったらいいのか、困惑しているようだ。
そして何より、A氏はすでに初老の57歳。30年超の途方もない時間が過ぎ去り、まさに「失われた30年」と呼ぶべき年月を、休職制度の狭間で消費してしまっていた。
部長は重ねてこう強調した。
「これ以上、この不毛なループを放置するのは会社としても無責任だと思うんだ」
かくして私は、社内でも半ばアンタッチャブルな存在となっていたA氏への、退職勧奨を行う、極めて重いミッションを背負うことになった。
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【最後に突きつけた復職の厳しい条件】
