取材の終盤、寺澤さんは「結構、毎日幸せなんですよね」と言った。それは何か大きな達成を指す言葉ではなく、ささやかで生活に根ざした実感だ。
この部屋の大きな窓から見える風景。 春になるときれいに咲くという桜。近所にある、素顔で居られるコミュニティ。まだ怒られることも多いけれど、それでも頑張ろうと思える仕事。
「大きな望みは特にないけれど、仕事ができるようになって、もう一度、愛車を自分の手元に戻したい。お金がないとき、実家に送り返してしまったので」
派手ではないが、自分の生活の延長線上にある喜びや、願い。その‟確かさ”が、彼の“幸せ”をつくり出している。
「はっきりしろよ」と言われながらも、寺澤さんは、自分の“わからなさ”をごまかさずに、踏ん張っている。ときどき安心できるコミュニティの中で力を抜いては、また仕事へ戻っていく。
そのタイトな繰り返しの中で積み重なっていくものだからこそ、彼の“幸せ”はささやかではあれど、軽くは聞こえなかった。
落ち着いた暮らし
