例えば、金正恩総書記の英語通訳を務めたキム・ジュソンのケースだ。
キムは、2018年6月のシンガポールでの米朝首脳会談と、この年複数回訪朝したアメリカのポンペオ国務長官との会談で金総書記の英語通訳を務めた。
ジュソンは劉と高校、大学の同期生だった。ジュソンは80年代にアフリカのジンバブエ駐在北朝鮮大使館の貿易イルクン(貿易要員)として勤務していた父親に同行してアフリカに滞在、英語を学んだ。平壌外国語大学で英語教員として勤務していたところ、1号通訳に選ばれ、外務省の情翻局に派遣された。
同局の副局長として勤務していた時、金総書記の通訳を専担する労働党国際部8課の部員となり、1号通訳に抜擢された。
金総書記「こんな発言していない」とクレーム
ジュソンは2018年9月、金総書記の通訳で間違いがあったとして1年間の労働革命化(強制労働)に処された。劉がクウェートに出張に来た外務省代表団の話を聞いてみると、処分の理由はあきれるものだったという。
金総書記は、ポンペオ米国務長官と会談した記録を見て、「自分がいつこのように言ったのか」と不満を漏らし、通訳が間違えたと言い出した。しかしその記録を作成した同窓生のジュソンの英語の実力は完璧だった。
劉もアラビア語の1号通訳として登録されており、国家行事のたびに最高人民会議常任委員会委員長、外相など政権幹部のアラビア語通訳を数多く務めた。
劉の経験によれば、通訳はたいてい会談録を整理するために速記ノートと録音を照らし合わせて内容をまとめるため、対話の内容が間違っていることはほとんどない。しかし、ジュソンは革命化教育を受けさせられ、1年後の19年9月、ようやく職場に復帰したという。
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【緊張して通訳がもたつくと…】
