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憲法9条と現実の乖離はどこから始まったのか――占領期の再軍備証言が暴く「ねじれ」と日本の安全保障の原点と限界

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憲法改正論議の中心となる憲法9条と自衛隊との関係はどこから生じたのか(写真:TTwing/PIXTA)
  • 高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

INDEX

5月3日の憲法記念日は、日本国憲法の理念と現実の距離を見つめ直す機会である。とりわけ安全保障をめぐる議論は、戦後一貫して憲法9条との緊張関係の中で展開されてきた。2026年4月、高市早苗首相が「国家の命運を左右する取り組み」と位置づける安全保障関連3文書の改定議論が本格化し、日本の防衛政策は今、大きな転換点に差しかかっている。

こうした現在の議論の原点をたどるうえで重要な手がかりとなるのが、フランク・コワルスキー大佐の回顧録『日本再軍備——米軍事顧問団幕僚長の記録』である。

本書は1969年に刊行され、後に英語版も出版された。占領期に警察予備隊創設の実務を担った当事者の証言は、戦後日本の安全保障がいかにして「ねじれた形」で形づくられたのかを内側から描き出している。

なお、この回顧録は、アメリカ軍出身でアメリカの防衛企業に勤める知人が「この本を読んで現在の日本がよく理解できた」と語り、2年前に筆者に強く薦めてくれた一冊でもある。

再軍備の当事者が語る「出発点」

著者のコワルスキーは、アメリカ陸軍の職業軍人として第2次世界大戦(1939~45年)と朝鮮戦争(50~53年)に従軍した後、大佐として連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)占領下の日本に派遣され、在日米軍事顧問団の初代参謀長を務めた人物である。自衛隊の前身である警察予備隊の創設の担当者であり、退役後は米連邦下院議員も務めた。その経歴は、軍事と政治の双方を知る観察者としての本書の重みを裏付けている。

朝鮮戦争という冷戦初期の激動の中、日本の安全保障政策は大きく転換を迫られた。1950年7月、GHQ最高司令官のダグラス・マッカーサー元帥(1880~1964年)は吉田茂首相(1878~1967年、在任1946~47、48~54年)に書簡を送り、7万5000人規模の警察予備隊の創設を指示した。在日米軍の朝鮮戦争派兵に伴い、日本国内の治安維持に空白が生じることを埋める狙いがあった。同年8月、この指示に基づいて警察予備隊が発足する。

その実務に携わったコワルスキーの証言は、日本の再軍備がいかに「例外的措置」として進められたかを浮き彫りにする。そこでは、憲法9条の制約と安全保障上の必要性のはざまで、法的整合性よりも現実対応が何よりも優先された経過が克明に描かれている。

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【「軍隊でありながら警察」とはこれいかに】

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