しかし、昨年3月に施設から自宅に帰ってきたAさんがあまりにやせていて、木村さんは驚いた。糖尿病の数値がよくないAさんは、施設では糖尿病食になるからだろう。もちろん医師が常駐しているので、やせていても健康状態には問題ないのだが……。
「脂肪が落ちたのはいいことですが、高齢なので同時に筋肉も落ちてしまいました。Aさんは体力も衰えて、何かの病気ではないかと不安な様子でした。でも早速、お友だちとの外食が再開して、皆さんのフォローも大きく、2カ月ほどで在宅バージョンのAさんに戻りました」
老健施設での食事管理は糖尿病の医療コントロールとして最善である。しかし、木村さんは在宅でそれを目指すことは絶対的な正解ではないと思っている。残された人生をどう過ごすのかは、個人の権利だからだ。
病院や施設と同じ管理を望む人、ライフスタイルを大事にしたい人。木村さんは利用者の希望や病状を主治医と共有して医療指示をもらい、介護や福祉とも連携して、利用者に合わせたサポートの策を練る。
健康的な食事よりも大事なこと
糖尿病は治癒する病気ではない。Aさんの場合、治療の目的は正常値を目指すのではなく危険水域にいかせないこと。だから食生活の改善や運動ではなく、訪問看護を利用して服薬と注射で数値をコントロールしていく。
主治医と共有する治療方針のベースにあるのは、楽しく自分らしく自宅で暮らしたいというAさんの希望である。
Aさんには、望めば娘の世話になって札幌で暮らすという選択肢もある。だが、本人は八雲を離れる気はないと断言している。木村さんはそんなAさんの楽しい日常を一日でも長く支えていきたいと考えている。
「冬は道路が凍結して徒歩での外出は難しいため、日々の買い物をどうするかが大きなネック。私は生協の宅配が有効かなと思うんです。私の訪問日に一緒にカタログを見ながら注文のマークシートをつければ、Aさんの脳トレになるし、認知症の度合いを測ることもできる。今から少しずつ一緒に訓練していけば、越冬入居期間を短くできるかなと思います」
今年も北海道の遅い春の到来とともに越冬入居を終えたAさんが自宅に帰ってきた。「木村さん、ただいま!」の声が嬉しい。
