訪問看護の訪問時間は30分。最初の5分は今日までどう過ごしていたかを聞く。それからバイタルチェック、注射と続き、服薬カレンダーに薬をセットする。
その間じゅう、Aさんは何回も「もう終わった?」「まだやることある?」とたずねてくる。
「そろそろ終わりますよ」と伝えると、Aさんは弾んだ声で「コーヒー出すから待っててね!」と言って台所に向かうのが常だ。
無用なトラブルを避けるため、利用者からの頂き物は禁止にしている事業所が多く、リリーも契約時の重要事項説明書に記載している。
木村さんが「訪問先では何も食べてはいけない決まりなんですよ」と困った顔をしても、Aさんは「2人しかいないんだから、誰にも言わなきゃいいことでしょ」と鋭いところを突いてくる。
1人暮らしのAさんは自宅に誰かが来てくれるのがうれしくて仕方ないのだ。その気持ちをむげにはできないので、木村さんは3回に1回くらいごちそうになることにしている。
看護師よりも「好きなこと」を優先してほしい
そのかわり、“楽しい茶飲み話”では終わらせない。一緒に台所に立ってコーヒーを入れる手順やガスの使い方を観察し、出された茶菓子は、自尊心を傷つけないようにさりげなく賞味期限をチェックする。
Aさんは認知障害については専門科の受診をしていない。利用者の日常生活の変化を把握して関係各所につなぐことも、リリーの役割である。
「買い物もお金の計算もできるし、人とのコミュニケーションも問題なく、携帯電話も使えます。調理も動作面に関しては大丈夫。身支度も問題ない。でも物の管理と日付の認識ができなくなっています。
亡くなったご主人にお供えしたお菓子を一緒に食べましょって、お仏壇から下げてくるのですが、その賞味期限が半年以上前とか、堅焼き煎餅なら大丈夫かなと思ってかじったら、まるでぬれ煎餅状態とか。Aさんに限らずご高齢の利用者さんの場合、お仏壇から下げてくるお菓子は要注意というのは、在宅あるあるなんですけれどね(笑)」
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【訪問看護のポリシーは、利用者の社会生活を“縮めない”こと】
