2017年、八潮にオープンした「Handicraft Works」。看板メニュー「ワイルドパレット」は、目の前で焼いたシュラスコを豪快に載せた油そばという、前例のない一杯だ。ラーメンでありながらラーメンではない。価格も当初から1000円超えと、当時の常識を逸脱していた。
立地は駅から徒歩20分の住宅街。決して恵まれた条件ではなかった。オープン直後こそ話題性で集客したが、3カ月で客足は途絶える。
それでも鶴岡さんはブレなかった。味を磨き続け、唯一無二の価値を追求する。その結果、『TRYラーメン大賞』汁なし部門で2年連続1位を獲得し、一気に人気店へと駆け上がる。平均単価1800円という、当時としては異例の価格帯。それでも支持されたのは、他と比較されない価値を作り上げたからだ。
「客数が半分になっても成立する設計にしないといけない。ラーメンの薄利多売はもう限界だと思っていました」
この思想は、今振り返れば極めて先進的だった。しかしその未来を見据えた設計すらも、抗えない現実に直面する。
転機は、2025年1月に起きた道路の陥没事故だった。八潮市中央一丁目交差点で発生した陥没事故で、原因は呼び径4.75メートルの下水道管の破損とみられる。店の周辺道路が寸断され、来店客が徐々に減少。1カ月に200人ずつ客数が減り続けるという異常事態に見舞われた。
「コロナも落ち着いて売り上げは戻りかけていたんです。でも事故を境に、完全に流れが止まってしまいました」
理由は明確だった。店に来るまでの動線が断たれ、遠回りしないと行けない店になってしまったのだ。数年ぶりに訪れる客の多くが、「道が使えなくて来られなかった」と口にした。努力ではどうにもならない外的要因。メニューを変え、価格を下げても流れは止まらなかった。
知識は増えるが、体力が落ちる。精神的な負荷も限界に
さらに追い打ちをかけたのが、身体の変化だった。50歳を迎える年、長年続けてきた肉の仕込みが明確にきつくなってきたという。
「知識は増えるけど、体力が落ちる。肉を切るスピードも落ちるし、すぐ疲れる。目も霞む。もう引退かなって、ずっと考えていました」
精神的な負荷も限界に近づいていた。中目黒での出店失敗、SNSでの批判、そこに重なった陥没事故からの売上不振。積み重なったプレッシャーは家庭にも影響し、ついには妻から離婚を切り出される。
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【派手さも尖りもない「一杯の味噌ラーメン」との出会い】
