てんろくには「天六飲食街 レンガ通り」という、周囲の風景とはまるで違うレンガ造りの飲み屋街がある。重厚でクラシカル、アンティークな質感は異国情緒さえ漂う。大阪でありながら阪急神戸三宮駅の駅舎を思わせる風合いなのだ。この辺りもてんろくに阪急文化が香る一つの要素となっている。
それでいて、レンガをはち巻きにしたゆるキャラをつくっていたりする。このあたりは、くいだおれ太郎からミャクミャクと続く大阪らしさ。てんろくはセンスが対流するポイントなのだろう。
タワマンの街に生まれ変わろうとする「てんひち」
「てんひち」こと天神橋筋7丁目商店街から再びアーケードが消える。そのため商店街は連続性を失い、「てんろくから先? 知らんわぁ」「ずっと“てんなな”やと思ってた」という声も耳にするくらい、ここから先へ進む人は少ない。そんなてんひちは2010年代以降、天神橋筋商店街のなかで風景がもっとも変化したエリアだ。
てんひちには、かつてはB級ホラーやアクションムービーばかりプログラムされ「大阪のグラインドハウス」と呼ばれた場末感たっぷりな映画館が存在した。建物の周りを自称「下品なくらいにダシが濃い“け”つねうどん」(大阪人は「きつねうどん」をしばしば「けつねうどん」と呼ぶ)で知られる立ち食いうどんや喫煙可の純喫茶が囲み、鑑賞前に腹ごしらえをしていたものだ。働きながら学ぶ苦学生を支えた関西大学夜間学部のキャンパスもあった。てんろくまでの賑わいに背を向けた人たちが集まるような、たそがれた雰囲気が筆者はとても好きだった。
現在はマンションが建ち並び、往時の面影はほぼ雲散している。マイナーな商店街から交通至便な明るい居住地へと生まれ変わり、トレンドスポットとなっているのだ。2027年に全面開業を控える大阪市北区の大型再開発「グラングリーン大阪」。この計画の影響を反映した大きな変化である。てんひちは「令和に生まれ変わろうとする先進的な大阪」を肌で感じられるゾーンなのだ。
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【「天神橋八丁目商店会」なる謎の標識】
