稲川家は父と娘だけで旅行に行くこともあるほど親子仲がいい。日本の平均的な親子に比べれば、距離が近いほうだ。しかし、ハナさんは「友達ではないので、父親らしく接してほしい」とも思っている。
「仲良くするのはいいけれど、一線を越えて友達扱いするのはどうかと思います。韓国語で私たちと話すときは、子供たちには丁寧語を使うよう教育してきました」
韓国では子供が親に「です・ます」のような丁寧語を使うのが一般的だ。ハナさんはその文化で育ってきた。最近では日本のように友達言葉で話す家庭も増えているそうだが、ハナさんはそれを良しとはしない。
とはいえ、日本の家庭では親子は友達言葉(タメ口)で話すことが多い。そのため稲川家も、日本語で話すときは友達言葉で話していいルールだ。だが、「つられて韓国語でも友達言葉を使う娘を見ると、日本語も丁寧語にすればよかったと思っています」とハナさんは嘆く。
一方、右樹さんは「僕自身がこれまで自分のことは自分で決めてきたので、娘たちにもそうあってほしい」と話す。
「彼女と僕は家族間だけでなく、人との距離感が根本的に違うので、意見の食い違いは多いです。どちらも譲らないので声を荒げた喧嘩もよくします。1時間くらい続くことも珍しくないですね。長くなると僕が飽きて喧嘩が終わるのですが、彼女の熱はなかなか冷めません」
右樹さんは苦笑いしながら、そう言った。
思いがけないオファーから帰国を決断
現在、稲川家は大阪で暮らしているが、2001年から2018年まで韓国のソウルに住んでいた。日本に移り住んだのは、右樹さんが大阪の帝塚山学院大学からオファーをもらったことがきっかけだった。それまで韓国の大学で日本語を教えていたが、本来やりたかった仕事は韓国語を教えること。その夢を実現できる機会が訪れたのだ。
「実は、2010年頃にも日本に帰りたいと思っていました。日本で韓国語教室を作ろうかと考えたこともあったんです。でも、収入が減るのは避けられないし、どうやって子供たちを養っていくのかと二人で悩んだ末、断念しました」
その後、2011年の東日本大震災がきっかけとなり、韓国での日本語学習者は急激に減少した。右樹さんは韓国の大学で日本語を教えていたが、契約は2年更新でいつ終わるかわからない不安も抱えていた。しかし、そのまま数年が過ぎ、「韓国で骨をうずめてもいいか」と思っていた頃に舞い込んだオファーだった。
次ページが続きます:
【国際結婚夫婦の子供ならではの経験】
