東洋経済オンラインとは
ビジネス

アップルが環境を「語らなくなった」本当の理由、リサ・ジャクソン退任後に進む"脱政治化"と現場組み込みの戦略転換

13分で読める
アップル環境ページからMacBook Neoの環境スコア。製品全体に含まれる再生素材の量は過去最多の60%、機械加工ではなく成形加工にしたことによるアルミの使用削減量50%。筐体の酸化皮膜処理における水の再利用率70%。どれもアップル独自の環境指標だが説得力がある (写真:アップル)
  • 林 信行 フリージャーナリスト、コンサルタント
2/7 PAGES

退任発表直後「アップルが環境から撤退した」といった見出しが、シリコンバレーのメディアに躍った。しかし、今回の発表はそれが誤読だと裏付けるものだ。確かにアップルの「語り方」は変わったが、環境へのコミットメントは変わっていない。そしてこの変化の意味は、日本企業で環境政策を担当する人たちにも大事な視点をもたらすはずだ。

専門職だったリサ・ジャクソンに代わって環境・社会イニシアティブを担当するようになったのは11人いるCレベル重役の2人。COO(最高執行責任者)のサビフ・カーンと上級副社長 兼 法務顧問のジェニファー・ニュースタッドだ(画像:筆者提供)
【写真を見る】アップルが環境を「語らなくなった」本当の理由、リサ・ジャクソン退任後に進む"脱政治化"と現場組み込みの戦略転換(10枚)

分断したESGへのまなざし

大々的にうたわないだけでアップルの環境に配慮した取り組みは続いている。2025年には環境保全の取り組みを通じて約8億ガロンの水を自然に戻した。これは、同社が世界中の施設で使用した水の半分以上にあたる。さらに、The Nature Conservancyとの協力により、カリフォルニア州では使用した水の全量を自然に戻したことになる(写真:Andrea Craig(TNC))

話は2025年1月、ドナルド・トランプが大統領に返り咲いたところから始まる。就任初日、トランプはパリ協定から再び離脱した。NOAA(米海洋大気庁)が運営していた「10億ドル超気象災害データベース」――1980年以降の気候災害コストを追跡してきた重要なデータインフラ――が同年5月に突然廃止された。EVインフラへの補助金は凍結され、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資を推進する規制は次々と骨抜きにされた。

政府が動けば、企業も動く。フォーチュン100企業のうち、ESGまたはサステナビリティレポートを公開した企業数は、2022年の74社から2025年には40社へと約半数に激減した。各社は「ESG」という三文字をプレスリリースから削除し、より中立的な言葉への置き換えを急いだ。ウォール街では「反ESG」を掲げるファンドが急成長し、ブラックロックやバンガードといった機関投資家がESG関連の投資家連合から脱退を表明した。

環境への取り組みは、かつて企業の「良心」を示す共通言語だった。それが今や政治的踏み絵になっている。「気候変動対策に熱心な企業」と言えば、米国の右派層からは「左翼的」「ビジネスより政治を優先する企業」と見なされる。

次ページが続きます:
【アップルが「静かに消したもの」】

3/7 PAGES
4/7 PAGES
5/7 PAGES
6/7 PAGES
7/7 PAGES

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

ビジネス

人気記事 HOT

※過去1週間以内の記事が対象