退任発表直後「アップルが環境から撤退した」といった見出しが、シリコンバレーのメディアに躍った。しかし、今回の発表はそれが誤読だと裏付けるものだ。確かにアップルの「語り方」は変わったが、環境へのコミットメントは変わっていない。そしてこの変化の意味は、日本企業で環境政策を担当する人たちにも大事な視点をもたらすはずだ。
分断したESGへのまなざし
話は2025年1月、ドナルド・トランプが大統領に返り咲いたところから始まる。就任初日、トランプはパリ協定から再び離脱した。NOAA(米海洋大気庁)が運営していた「10億ドル超気象災害データベース」――1980年以降の気候災害コストを追跡してきた重要なデータインフラ――が同年5月に突然廃止された。EVインフラへの補助金は凍結され、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資を推進する規制は次々と骨抜きにされた。
政府が動けば、企業も動く。フォーチュン100企業のうち、ESGまたはサステナビリティレポートを公開した企業数は、2022年の74社から2025年には40社へと約半数に激減した。各社は「ESG」という三文字をプレスリリースから削除し、より中立的な言葉への置き換えを急いだ。ウォール街では「反ESG」を掲げるファンドが急成長し、ブラックロックやバンガードといった機関投資家がESG関連の投資家連合から脱退を表明した。
環境への取り組みは、かつて企業の「良心」を示す共通言語だった。それが今や政治的踏み絵になっている。「気候変動対策に熱心な企業」と言えば、米国の右派層からは「左翼的」「ビジネスより政治を優先する企業」と見なされる。
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【アップルが「静かに消したもの」】
