被害は現実として積み上がっている。しかし「気候変動のせいだ」と口にすることは、ビジネスリスクになった。
この嵐の中で、アップルがひっそりと行ったことがある。2025年の役員報酬パッケージから、「ESGモディファイア」を削除した。この条項は2021年から設けられており、温室効果ガスの削減率やサプライヤーの再生可能エネルギー導入状況など、ESG指標の達成度に応じてCEO以下の役員のボーナスを最大10%増減できる仕組みだった。アップルはそれを、ほぼ無告知で廃止した。
続いてリサ・ジャクソンの退任発表が来た。後継者なし。環境部門をCOO配下に統合。
組み合わせると、一つのメッセージが浮かび上がる。アップルは「環境」をCレベル(役員会直属)の専門領域から「オペレーション(事業運営)」の一部へと組み替えた。外向きのアドボカシー(政策提言)機能を弱め、内側の実装機能を強化する――そういう構造的な転換を図ったとも読める。
「語り方」を変えたアップルが、今回、発表した年次環境進捗報告書の内容は、過去最高水準だった。
今年発売されたMacBook Neoは、60%の再生素材を使用するアップル史上最高のリサイクル含有率を持つ。アルミ筐体のアルマイト処理では水の70%を再利用するクローズドループシステムを実現した。
Apple Watch Ultra 3とApple Watch Series 11のチタンケースは航空宇宙グレードの100%再生チタン粉末を3Dプリントで製造し、前世代比で原料使用量を50%削減している。
コミットメントは前進している。むしろ加速している。
アップルが変えたのは「誰が、どんな言葉で、どこへ向けて語るか」だ。
何が変わり、何が変わらなかったか
ジャクソン時代のアップルは、EPA長官経験者という「政治的な重み」を持つ人物が環境の顔を担うことで、その取り組みに一定のイデオロギー的な位置づけを与えていた。
今年の報告書に署名したのは、COOのサビフ・カーンとVP(環境・サプライチェーン・イノベーション担当)のサラ・チャンドラーだ。前者は製造・調達・物流の責任者であり、後者は「環境」と「サプライチェーン」を一体で担う役職に就いている。
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【肝は組織設計:CSR部門から「オペレーション」へ】
