重要なのは、この試みは一度で終わっていないことだ。その後も他出版社・レーベルでの「全点揃え」を展開し、持続的な話題創出に成功している。
読書文化は、むしろ育っている
その背景にあるのが、「読書をめぐる空気の変化」だと千葉さんは語る。
「実はこの1年ぐらいでさらにSNSの影響力が大きくなっていることを感じています。トレンドやブームのような盛り上がりではなく、読書文化が育っている、という流れになっているな、と」
その感触を強めたのが、若葉台店も連携する「本をつなぐプロジェクト」の存在だった。読者や著者、出版社、書店など、本に関わる人たちをSNSでつなぐプロジェクトの取り組みを通じて、本について発信する人たちの熱量や影響力がより大きくなってきたという。
変化は売り場の客層にも表れている。
「ビジネス書の売り場で、若い方や女性がビジネス書を探す姿が増えた印象があります。また、今回岩波文庫がバズったときも、その後、棚の前にもう毎日お客さまがひっきりなしにいらっしゃっていて、特に若い男性が多かったのが印象的でした」
小説売り場では、YouTubeで小説を紹介するショート動画の影響もあり、中高生の姿も増えているようだ。
読書離れと言われて久しいが、若葉台店の棚の前に立つ人たちを見ていると、読書文化の盛り上がりが感じられる。岩波文庫の全点揃えにも「本の業界全体が盛り上がってくれれば」という思いがあったと千葉さんは語る。
4月9日の「本屋大賞」発表後には、若葉台店はもちろん、各地の書店で直後に棚が作られ、SNSにもその写真があふれた。業界全体の熱も伝わってきた。
書店同士の関わりを想像すると「競合」という言葉がつい浮かぶが、「ともに読書文化を育てる」存在のようだ。
「SNSもそうですが、書店さん同士で情報を共有しあいながら、書店も一体になり、みんなでこの業界を発展させていく。そんな動きが望ましいと思っています」
都心から少し離れた郊外の大型複合店を歩いていたら、あっという間に時間が経っていた。楽しさに満ちた空間の先に、新たな読書文化の広がりが見えてきた。
