この車窓の豊かさには、路線の成り立ちが深く関わっている。明治時代に私鉄の甲武鉄道として開業した中央線は、地形の変化がそのまま路線の個性になった。市ヶ谷付近では江戸城の外堀跡に沿って線路が敷かれ、市街地の地形に合わせて曲線の多い区間となっている。一方、中野から立川にかけては武蔵野台地の平坦地を比較的まっすぐ貫いていく。高尾から先は山間部に入り、急勾配やトンネルが連なる区間だ。
都心のビル群から武蔵野の広い空、そして深い山並みへと、車窓が次々に表情を変えるのは、こうした地形の変化があってこそだといえる。
複数の運行系統があるため、いざというときの選択肢が多い
景色に加えて、交通面での強みも大きい。
中央線のもうひとつの特徴は、御茶ノ水から三鷹にかけて線路が4本並ぶ「複々線」になっている点だ。ここでは中央線の快速電車にJR総武線の各駅停車が並走して、各駅への停車をカバー。さらに特急「かいじ」「あずさ」といった長距離列車も同じ快速線を利用しており、快速・各停・特急がそれぞれの役割を分け合う形で運行されている。また中野駅からは東京メトロ東西線が乗り入れており、都心の地下鉄ネットワークにもつながっている。
こうした複数の運行系統があるため、どこかでトラブルが起きても代替ルートを確保しやすい。吉川さんがこんなエピソードを教えてくれた。
「大雪が降って中央線が止まったとき、八王子から都内に通勤していた妹が帰宅できなくなったんです。家に泊めてほしいと連絡がきたのですが、あちこちで電車が止まっていて。それでも妹は地下鉄を乗り継いで、なんとか東西線で中野まで戻ってこられたことがありましたね」
とくに中野駅は中央線、総武線、東西線が交わる結節点だ。ひとつが止まっても別のルートがあるという選択肢の多さが、沿線で暮らすうえでの安心感につながっているのだろう。
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【ひと駅ごとに濃い個性「中央線カルチャー」】
