松本:CEOを退任したタイミングで新しく始めたことの一つは、東京大学に応用資本市場研究センターを開設してもらったことです。こちらは私のライフワークである資本市場の研究を行い、日本の競争力を高める政策提言をするための組織です。そしてもう一つが、先ほど挙げていただいたルビ財団の立ち上げです。
窪田:お父様が出版関係のお仕事をされていたこともあり、ご自身も本に親しんでこられたとのこと。しかしなぜ「ルビ」なのでしょうか。
本棚の下段に置かれた「ルビつきの本」が好奇心を育てた
松本:進行形のときは意識していませんでしたが、子どものころにずいぶんとルビの恩恵を受けていたことに、大人になってから気が付いたのです。
私が育った家はとにかく本だらけでした。窓以外、すべての壁は床から天井まで本棚で埋め尽くされ、棚は手前と奥とで二重に本が詰め込まれているような環境です。ハイハイを経て自力で動けるようになった幼少期の私は、まずは本棚の一番下の段から本を引っ張り出して、床に座って読むようになりました。
少し大きくなると、次は下から二段目の本に着手していくわけですが、今思えば父は、私の手が届く最下段の棚に、ルビの振られた本を置いてくれていたようなのです。
窪田:静かですが大きな愛情を感じますね。
松本:江戸川乱歩の『怪人二十面相』のような子ども向けの小説のほか、大人向けの多様なジャンルの本もありました。とくに印象に残っているのは園芸の本です。例えば「イチゴの育て方」として、室温は何度ぐらいにすべきか、日照時間や水はどれぐらい必要か、肥料のカリウム濃度はいかほどかといったことが詳しく書いてありました。
大人が読むための実用書なのですが、ルビが細かく振ってあったので、子どもの私も面白がって読むことができたのです。世界の美術史について書かれた美しい本などもありましたね。自分の興味に任せて棚から本を引っ張り出しても、ルビがあるから、親の力を借りることもなく読めた。そういった経験が、いろいろなことへの好奇心を耕していったのかなと思います。
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【マンガにもルビは振られている】
