「教育委員会に見せるために整えられた場面ではなく、普段どおりの授業を見ること。『いつでもどうぞ』と言える開かれた環境があるか、校長が教職員とどう関わっているかを実際に確かめると、新たに見えてくるものがあると思います」
データと現場の両方を見て初めて、学校の実態は立体的に浮かび上がる。3つ目が、校長研修のあり方だ。
「自己認識力を養うような研修は、すべての校長に必要だと思います」
住田氏が強調するのは、「何を知っているか」ではなく、「自分をどう理解しているか」である。自分はどんな価値観で判断しているのか。どんな行動のクセがあるのか。人の話をきちんと聞けているのか。こうした自己認識がなければ、無自覚な言動が組織を傷つける可能性がある。では、どのような研修が必要なのか。
住田氏が管理職向けの研修で実践しているのは、一方的に教えるのではなく、相手の中にある考えや価値観を引き出し、自ら気づきを得てもらうエンパワメント型アプローチだ。
「教えるというより、引き出すんです。その人の中にある考えや価値観に、自分で気づいてもらうのです」
正解を与えるのではなく、内省を促す。さらに重要なのが、継続である。
「研修を1回受けたからと言って、人は変わりません。その場で理解したつもりでも、現場に戻れば元に戻る。だからこそ学びを持ち帰り、日常の中で振り返り続けることが必要になる。職員会議の進め方を見直したり、業務の任せ方や声のかけ方を工夫したりする中で現場でやりながら、『あ、あのときの話はこういうことか』って気づくんですよね。こうした自問自答の積み重ねが、少しずつ行動を変えていくんです」
そしてあるとき、周囲が変化に気づく。
「『校長先生、変わりましたね』と言われるようになったら、本物ですよね」
校長研修に求められているのは、知識の習得だけではない。自分を見つめ直し、行動を変えていくプロセスを支えることだ。見落としてはならないのが「外から支える仕組み」だ。
「相談窓口をきちっと整えることも大切です」
学校だけで問題を解決しようとすれば、どうしても力関係に左右される。そうした構造の中では、不満や違和感は表に出ないまま蓄積していく。だからこそ、外部相談窓口や第三者委員会といった“外に開かれた回路”が不可欠になる。
教職員組合の役割も重要だと、住田氏は言う。「組合が弱くなると、声が上がらなくなるんです」。現場の声を集約し、交渉する機能が弱まれば、問題は「なかったこと」にされる。
校長は「空気」を作る存在
「とどのつまり、校長先生って、空気なんですよ」
住田氏はこう言い切る。校長は、命令や評価だけで組織を動かしているわけではない。そこにいるだけで空気をつくり、教職員同士がどう関わるかの土台を形づくってしまう存在だ。
「学校全体がいい循環になるか、悪い循環になるか。その発信源が、校長なんです」
校長に求められているのは、強いリーダーシップではない。自分はいま、どんな空気をつくっているのか。その自覚である。
「その前提となるのが、権限の捉え方です。権限とは、人を従わせるための力ではありません。最終的な意思決定を引き受け、その責任を負うことです」
だからこそ重要なのは、単なる権限分散ではなく、意思決定のあり方に対する理解の共有である。副校長や教頭と方向性をすり合わせながらも、最後に決める責任は校長が負う。その覚悟が、組織の軸をつくる。さらに見落としてはならないのが、「人によって考え方は違う」という前提だ。
『子どものために』という言葉1つでも、その解釈はそれぞれ異なります。校長像もまた、1つではありません」
パワハラは、特別な人が起こすものではない。組織の仕組みや環境と、本人の気づかない言動が重なったとき、どの学校でも起こり得る。
「だからこそ必要なのは、今ある仕組みをどう変えていくかを考え続けることと、『自分はどうか』と問い続けることです」



