ポスター1枚も刷らず3万席完売、舞台チケットを「最初の数日分」だけ売って観客を"営業マン"にした集客術
この戦略の目的は、前半の売上を最大化することではない。できるだけ早い段階で、「評判を回してくれる人」と「もう一度観たいと思う人」を、最大数獲得することにある。場合によっては、特典を付けてもいい。チケット価格を下げても構わない。
前半のチケットは、収益商品ではなく、需要の立ち上がりそのものを前倒しさせるための“投資”として扱う。
その結果、後半の日程において、主催者が多額の宣伝費や労力を投じる必要はなくなる。
後半の売り手は観客自身
実際、ミュージカル『えんとつ町のプペル』では、後半の日程のチケット販売に、ほとんど宣伝コストをかけていない。なぜなら、後半は「主催者が売るフェーズ」ではなく、観客自身が売り手になるフェーズだからだ。
言い換えれば、公演初日という最初の観測地点において、後半の日程のチケットが売れていなくても問題はない。むしろ、その段階で確認すべきなのは、「この作品は、人に勧めたくなるか」という一点だけだ。
ファーストウェーブ戦略とは、後半に必ず立ち上がる需要を、前倒しで発火させるための戦略だ。もちろん、この戦略には絶対条件がある。それは作品の強度だ。
"面白くなければ、評判は良い方向には進まない。むしろ、不満や失望が、正直な速度で広がっていく。ファーストウェーブ戦略は、魔法じゃない。それは「売り方」でごまかす余地を消し去り、制作者に「良いものを作る」という一点への誠実さを要求する仕組みだ。
ファーストウェーブ戦略を導入したミュージカル『えんとつ町のプペル』は、その条件を真正面から満たし、25公演・約3万席を完売させた。ポスターも、フライヤーも、1枚も刷っていない。集客の中心にあったのは、広告物ではなく、舞台を体験した観客そのものだった。
この話は、舞台公演に限ったものではない。
多くのビジネスや表現の現場で、僕らはいつの間にか「当たり前」とされている前提を、深く考えることなく受け入れてしまっている。
だが、そこで問うべきなのは、「それは、自分たちの武器と噛み合っているかどうか」だ。期間を持つ興行なのに、単発イベントと同じ売り方をしていないか。口コミが最大の推進力なのに、広告に頼り切っていないか。自分たちが持っている強みを、自分たち自身が過小評価していないか。
戦略とは、奇をてらうことではない。流行に乗ることでもない。自分の武器と対話し、それが最も力を発揮する形を設計することだ。
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