ポスター1枚も刷らず3万席完売、舞台チケットを「最初の数日分」だけ売って観客を"営業マン"にした集客術

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この戦略の目的は、前半の売上を最大化することではない。できるだけ早い段階で、「評判を回してくれる人」と「もう一度観たいと思う人」を、最大数獲得することにある。場合によっては、特典を付けてもいい。チケット価格を下げても構わない。

前半のチケットは、収益商品ではなく、需要の立ち上がりそのものを前倒しさせるための“投資”として扱う。

その結果、後半の日程において、主催者が多額の宣伝費や労力を投じる必要はなくなる。

(画像:『北極星 僕たちはどう働くか』(幻冬舎)より)

後半の売り手は観客自身

実際、ミュージカル『えんとつ町のプペル』では、後半の日程のチケット販売に、ほとんど宣伝コストをかけていない。なぜなら、後半は「主催者が売るフェーズ」ではなく、観客自身が売り手になるフェーズだからだ。

北極星 僕たちはどう働くか
『北極星 僕たちはどう働くか』(幻冬舎)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

言い換えれば、公演初日という最初の観測地点において、後半の日程のチケットが売れていなくても問題はない。むしろ、その段階で確認すべきなのは、「この作品は、人に勧めたくなるか」という一点だけだ。

ファーストウェーブ戦略とは、後半に必ず立ち上がる需要を、前倒しで発火させるための戦略だ。もちろん、この戦略には絶対条件がある。それは作品の強度だ。

"面白くなければ、評判は良い方向には進まない。むしろ、不満や失望が、正直な速度で広がっていく。ファーストウェーブ戦略は、魔法じゃない。それは「売り方」でごまかす余地を消し去り、制作者に「良いものを作る」という一点への誠実さを要求する仕組みだ。

ファーストウェーブ戦略を導入したミュージカル『えんとつ町のプペル』は、その条件を真正面から満たし、25公演・約3万席を完売させた。ポスターも、フライヤーも、1枚も刷っていない。集客の中心にあったのは、広告物ではなく、舞台を体験した観客そのものだった。

この話は、舞台公演に限ったものではない。

多くのビジネスや表現の現場で、僕らはいつの間にか「当たり前」とされている前提を、深く考えることなく受け入れてしまっている。

だが、そこで問うべきなのは、「それは、自分たちの武器と噛み合っているかどうか」だ。期間を持つ興行なのに、単発イベントと同じ売り方をしていないか。口コミが最大の推進力なのに、広告に頼り切っていないか。自分たちが持っている強みを、自分たち自身が過小評価していないか。

戦略とは、奇をてらうことではない。流行に乗ることでもない。自分の武器と対話し、それが最も力を発揮する形を設計することだ。

西野 亮廣 芸人・絵本作家

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にしの あきひろ / Akihiro Nishino

 1980年兵庫県生まれ。黒いペン1本で描いた絵本『Dr. インクの星空キネマ』を皮切りに、モノクロの絵本『ジップ&キャンディロボットたちのクリスマス』『オルゴールワールド』、カラーの絵本『えんとつ町のプペル』『ほんやのポンチョ』『チックタック〜約束の時計台〜』『みにくいマルコ』、小説『グッド・コマーシャル』、ビジネス書『魔法のコンパス』『革命のファンファーレ』『新世界』『ゴミ人間』『夢と金』など、幅広いジャンルで続々と刊行、すべてがベストセラーとなっている。 原作・脚本・製作総指揮を務めた『映画えんとつ町のプペル』(2020)では、映画デビュー作、かつコロナ禍にもかかわらず動員196万人、興行収入27億円突破、第44回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞受賞という異例の快挙を果たし、世界中の映画賞も数々受賞。原作・脚本・製作総指揮を務めたコマ撮り短編映画『ボトルジョージ』(2024)では米アカデミー賞のショートリスト入りを果たす他、世界中の映画賞を数々受賞。 また、ミュージカル『えんとつ町のプペル』でも、製作総指揮・原作・脚本を務めると、開幕前に3万席のチケットを完売し、総制作費4億 5000 万円についても初週で回収を完了。圧倒的世界観で国内外の評判を集めた。ニューヨーク・ブロードウェイでは、ミュージカル『CHIMNEY TOWN』の制作も進行している一方で、舞台『OTHELLO(オセロ)』(2025、主演:デンゼル・ワシントン、ジェイク・ギレンホール)の共同プロデューサーを務め、ブロードウェイ週間興行成績で3週連続1位に輝く。 そして、映画としての第2弾、『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』(2026 年春公開)では、事業投資型クラウドファンディングによって、製作費4億8000万円を、34時間で集めている。

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