ポスター1枚も刷らず3万席完売、舞台チケットを「最初の数日分」だけ売って観客を"営業マン"にした集客術

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やがて公演も後半に差しかかり、口コミやリピーターによって客席が埋まり始める。その様子を見た多くのプロデューサーはこう総括する。

「やっぱり、良い作品は時間をかけて広まるよね」

まるで彼らは「自分たちの正しさ」が証明されたような顔をしているが、冷静に見れば、これは大きな機会損失の告白だ。後半にリピーターと評判で客席が埋まったということは、その作品には「人に勧めたくなる力」も、「もう一度観たくなる力」も、もともと備わっていたということだ。

にもかかわらず、その力を前半の日程では活かしきれず、空席を抱えたまま全日程を終えてしまっている。これは「需要がなかった」のではない。需要を前半に移送する設計がなかったのだ。

ここで一つ、視点を変えてみたい。

「公演初日」の時点でチケットの売上を観測すると、その分布は、初日と千秋楽を両端に持つ「U字形」を描く。

(画像:『北極星 僕たちはどう働くか』(幻冬舎)より)

ところが、観測地点を「公演最終日」に移すと、まったく異なる風景が立ち上がる。公演開始から1週間ほどが経過したあたりを境に、中盤以降の日程のチケットが右肩上がりで売れ始め、後半に入る頃には、千秋楽と同じように完売へと向かっていく。

(画像:『北極星 僕たちはどう働くか』(幻冬舎)より)

このとき描かれるグラフは、平方根(√)に近い「後半加速型」の曲線だ。そして、この後半の売上を押し上げている正体は、広告でも、値引きでもない。「評判」と「リピーター」だ。

長期イベントとは、本来、明確な時間構造を内包したビジネスだ。前半で体験が生まれ、その体験が評判となって外へと広がり、やがて後半の需要を押し上げていく。これは偶然ではなく、構造としてそう設計されている。

にもかかわらず、多くの舞台公演におけるチケット販売は、初日から千秋楽まで、すべてを「各日独立の単発イベント」として扱ったまま進行している。時間が生む価値を前提としたビジネスでありながら、その時間を戦略に組み込めていないのだ。

最小限の宣伝コストで公演3万席を完売

そこで、ミュージカル『えんとつ町のプペル』では、従来とは発想そのものが異なるチケット戦略を展開した。

『ファーストウェーブ戦略』だ。

ファーストウェーブ戦略の考え方は、驚くほどシンプルだ。チケットは全日程を一斉には売り出さない。まずは最初の4日間だけを「第1弾チケット」として切り出し、宣伝のコストも、人的なエネルギーも、すべてをそこに集中させる。

次ページ前半のチケットは“投資”として扱う
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