天才ピアニストが語る、ショパンの「革命」とソ連の「大義名分」。"ブルジョワ的"が許された訳/スタニスラフ・ブーニン氏インタビュー(前編)

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――ここでいう「勝ち」とはどのような意味合いですか。

何よりも、「人生の諸事情に打ち勝ってきた」という意味です。例えば、かつて亡命する前にモスクワで体験したこと、本当にひどい人たちに相対したこと。あるいは病に襲われたこと、そしてピアニスト生命にかかわる足のけが。

こうしたことに打ち勝たなければ、人生が過去のみで成り立つことになってしまう。何も残らない。だから私には、それらの苦難に打ち勝って、何かのために、さらに生き続けることが必要でした。

――困難に向き合うとき、どのような心持ちなのでしょうか。

1つは神を信じること、そしてもう1つは、音楽による喜びへの渇望です。音楽そのものがもたらしてくれる喜び、私はその喜びに対する渇望なしには苦難に打ち勝つことはできなかったと思います。個人的な意見ですけどね。

共産党指導部を納得させた言葉

――モスクワでの体験といえば、本書にはショパンコンクール優勝後の出来事として、印象的な記述があります。「ショパンの『革命』をプロレタリア精神を込めて弾きます」と。 “ブルジョワ的音楽”とされるショパンの曲を弾くに当たり、この言葉で共産党指導部を納得させたという描写ですが、ブーニンさん自身は当時どのような思いを抱きながらこの発言をされたのですか。

そこで取り上げた『革命のエチュード』の演奏に関しては、ちょっと面白い話がありました。昔話をする前にまず前提をお話ししておくと、そもそも『革命』というエチュードは、いろんな人に乱用・悪用されてきたと思います。というのも、この曲を「ショパンの革命宣言」だと思っている人たちが多いわけです。それぞれが自分のいいように「革命宣言」を利用している。

私は1985年、ポーランドのワルシャワで行われたショパンコンクールで優勝し、金メダルを持ってモスクワへの帰途につきました。列車に乗っている間に国境を越えるので、乗車中には国境警備員がやって来ていろいろとチェックされる。その時に、警備員が私のメダルを見ていた。本当に金なのかどうかを確認していたのでしょう。道中そんなこともありつつ、何ごともなく、問題なく通してもらえました。

ただ、列車から降りたあと、税関の職員が、「モスクワで、皆さんがあなたを待ち構えていますよ」と言ったんです。

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