この政策では金正恩氏が2024年8月、地方工業工場と並行して、病院や科学技術普及拠点(後に多目的文化施設に変更)、穀物管理施設を建設するとの方針を明らかにし、2025年度から試行的に建設が始まりました。
箱田:かなり地方にリソースをさいているのですね。
坂井:首都平壌でも、2021年から5年間に、毎年1万世帯分の住宅を主とした新街区の開発に取り組むなど、精力的な整備を続けています。
保健医療分野に注力
箱田:2つ目の分野的な意味というのは何でしょう。
坂井:かねて重視してきた経済、軍事分野に加えて、文化や社会分野の発展もおろそかにしないということです。とりわけ最近、顕著なのが保健医療分野に力を注いでいることです。
2020年に着工したものの、建設が中断されていた平壌総合病院の「完工」と「10月開業予定」が2025年2月に報じられました。先ほど言ったような地方での病院建設とともに、地方医療機関に対する中央の病院による支援体制の構築などが図られています。
金正恩氏は2025年2月、平壌市内の病院の着工式で「自国人民の生命と健康に責任を持つという意志と能力のない国家に対し、何かの強大さや発展について言うことができず、制度の優越性についても論じることができません」と述べています。
「(社会主義)制度の優越性」は、北朝鮮が自らの体制を自賛するうえでの基本的な概念です。その表現を使ったことからも、保健医療分野の改善に向けた強い意志がうかがわれます。
箱田:保健医療以外の分野ではどうですか。
坂井:育児・教育面などにも力を入れていますね。国家による乳幼児への乳製品供給体制を整えたり、生徒や学生らに制服、学用品などを支給したり、また企業所などによる学校後援活動の督励なども進めています。学生服工場とか学習ノート工場を道(日本の都道府県ぐらいに相当)ごとに新設していることからも、本気度は高いと言えそうです。