【“認知症1200万人時代”到来へ】2050年に消費額は「16.9兆円規模」に拡大 企業は経営戦略として「認知症」に向き合え
認知症と聞くと、まず「物忘れ」を連想する人が多いかもしれない。しかし、実際の症状はもっと複雑で多面的である。
たとえば、時間や場所の感覚がずれる「見当識障害」、距離感や空間認識が難しくなる「視空間認知障害」、段取りが取れなくなる「実行機能障害」などがある。これらの症状が進むと、日常生活の中で「できていたこと」が少しずつ難しくなっていく。
一方で、こうした“生活のしづらさ”の多くは、環境の工夫や製品の改良によって軽減可能である。
たとえば、上下や前後がわかりやすく、スムーズに着脱できる衣類、直感的に使える家電、手順を簡略化したインターフェースなどは、認知機能が低下しても自立した生活を続ける支えになる。
このように、認知症を「治す」ことは難しくても、「暮らしやすくする」ことは十分にできる。その発想の転換が、今まさに求められている。
「認知症になったら施設に入る」は少数派?
認知症になったら施設に入る──そんなイメージを抱いている人は少なくないだろう。だが、実際には大多数の認知症の人が地域の中で、家庭で生活を続けているのが現実である。
たとえば、2025年時点では、認知症やMCIのある高齢者約1,000万人のうち、およそ9割にあたる905万人が在宅で生活していると推計される。さらにその中の約250万人は一人暮らしであり、施設入所者は約131万人にとどまる。
この傾向は今後さらに強まり、2050年には在宅生活者が1,034万人、一人暮らしの人が349万人に増加する見込みである。
つまり、認知症の人は病院や施設の中だけにいるのではない。スーパーで買い物をし、電車やバスに乗り、カフェで過ごす生活者=消費者として、地域社会の中に確実に存在しているのだ。この事実は、企業にとって極めて重要な意味を持つ。

数字を見れば、この市場のインパクトが明らかになる。
日本の15歳未満の子どもの人口は、2035年時点で1,169万人。これに対し、認知症・MCIのある高齢者は、2035年には1,173万人、2050年には1,218万人に達する。つまり、近い将来、認知症・MCI高齢者の数が子どもを上回る社会になる。

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