【東京都で21人搬送】「自分は大丈夫」が命取りに!梅雨の合間や梅雨明けも油断してはいけない熱中症リスク《医師が解説》

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6月1日から熱中症対策が罰則付きで法的に義務化されました。これは、地球温暖化による猛暑の常態化を受け、労働安全衛生規則が改正されたためです。ついに熱中症対策が「国策」となったのです。

重要なのは、この法律は“最低限の安全基準”だということです。法的義務を満たすだけでは不十分で、それぞれが積極的な熱中症対策を行う必要があります。熱中症は職場だけでなく、通勤中、家庭内、レジャー中など、あらゆる場面で発生するからです。

職場や学校では、服装の自由化やクールビズの徹底、暑さ指数(WBGT:湿球黒球温度)計の導入、警戒アラートの共有などが重要です。また、活動スケジュールの調整も効果的で、最も暑い時間帯を避けて早朝や夕方に活動時間をシフトすることで、リスクを大幅に軽減できます。

暑さはもはや「リスク」でしかない

この法改正の背景には、深刻な現実があります。

近年、職場での熱中症による死亡災害は年間30人レベルで推移し、ほかの労働災害と比べて死亡率は5〜6倍高くなっています。建設現場や工場だけでなく、倉庫や配送センター、さらには一見安全に思える職場でも、熱中症による重篤な事故が相次いでいるのです。

今回の義務化により、事業者には具体的な対策が求められます。「報告体制の整備」「作業中断・冷却の手順明示」「作業者への周知教育」などが法的義務となり、違反した場合は罰則が科せられます。

WBGTが28℃以上、または気温31℃以上の環境下で、連続1時間以上または1日4時間を超えて作業する労働者が対象となります。

当てはまるのは、建設業や製造業だけではありません。先に挙げたとおり、オフィスワーカーでも、外回りの営業活動や現場視察、屋外での顧客対応などがある場合は、対象となる可能性があります。

今回の法制化は、熱中症対策における意識転換のスタートラインにすぎません。本当に必要なのは、1人ひとりの価値観の転換です。「暑さを我慢することが美徳」という昭和的な根性論は、もはや命取りとなります。

冷房の使用を我慢する、外出予定を無理にこなす、喉が渇いても水分を摂らないといった昔ながらの行動は、「自分は大丈夫」という正常化バイアスに基づく危険な判断です。

暑さをリスクとして正しく認識し、科学的根拠に基づいた対策を講じる。これが、これからの時代に求められる新しい常識です。企業や学校は従業員や生徒の安全を最優先とし、個人は自分の体調変化に敏感になり、社会全体で熱中症と向き合っていく必要があります。

谷本 哲也 内科医

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たにもと てつや / Tetsuya Tanimoto

1972年、石川県生まれ。鳥取県育ち。1997年、九州大学医学部卒業。医療法人社団鉄医会ナビタスクリニック理事長・社会福祉法人尚徳福祉会理事・NPO法人医療ガバナンス研究所研究員。診療業務のほか、『ニューイングランド・ジャーナル(NEJM)』や『ランセット』、『アメリカ医師会雑誌(JAMA)』などでの発表にも取り組む。

 

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