「公園で博打」「路上で麻薬の売買」「結核と赤痢が流行」大阪ドヤ街《西成》の今をルポライターが解説
酔っ払い同士が怒鳴り合い、殴り合う光景もよく目についたが、早朝の西成は真面目だった。朝といっても夜明け前の4〜5時である。まだ暗い道を、作業服を着た男たちがボストンバッグを肩に背負って黙々と歩いていた。目指す先は西成労働福祉センター、通称「センター」と呼ばれるランドマーク的な建物だった。

そこで仕事が決まっている人はヴァンに乗せられて現場に運ばれ、仕事が決まっていない人は「手配師」と呼ばれる男と交渉して仕事を得る。仕事にあぶれた人は、センターで「あぶれ手当」をもらう。センターの周りには、彼らをターゲットにした飯屋の屋台や、消費期限切れの弁当を売る露店が並んでいた。
露店は盛況で、どこかで拾ってきた片方の靴やリモコンを売る人、スルメを紙皿に乗せて売る人などさまざまだった。裏ビデオや睡眠薬など非合法な物も売られていた。もっと非合法な麻薬は、さすがに露店では売られていなかったが、道路には何人も売人が立っていた。
ドヤの窓から外をのぞくと、売人が日雇い労働から帰ってきた男たちに話しかけているのが見えた。中には、まだ高校生にしか見えないような売人もいた。

現在の西成は安全面はかなり向上したが…
さすがに今の西成では、そんな荒っぽい光景は見られない。相変わらず立ちションの臭いはするが、昔に比べればよく清掃されている。フェンスが設置され、キレイに保たれている公園も多い。
普通に歩いていて喧嘩に巻き込まれる可能性は、ずいぶん減った。日雇い労働の数が減り、福祉を受ける老人が増えたので、喧嘩は減った。
ただし、今でも暴力団の事務所は残っているので、同じ場所でしつこく写真を撮るなどの行動はリスクがある。また三角公園のあたりには酔っ払いも多く、たちの悪い人もいるので注意した方が良い。さらに都心では見かけなくなった「ウンコ」が、ちょくちょく落ちているので、踏まないように気をつけたい。

センターは、機能を近くの小さな建物に移して閉鎖された。その後、立ち退き反対派の人たちがビルの周囲をゴミだらけにするという、訳のわからない抵抗運動を行い、ものすごい光景になっていた。現在ではそれも排除され、無機質な白い壁で囲まれている。
以前に比べて素っ気ない雰囲気にはなったが、安全性の面では向上した。建物自体はまだ健在なので、今のうちに見ておくべきだ。