「餃子」だけじゃない宇都宮。一人の男性がじわりと育てた《町の新しい顔》は餃子のイメージとは異なる意外なもの

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また、根本社長は清掃活動などでも町おこしに尽力。すると2017年か2018年頃、店へランチに来た不動産会社社長らから次々と、「ずっとシャッター街で、出店希望者がほとんどなかったのに、20年ぶりに『オリオン通りには今、物件がありません』と言えたよ」と報告されたのだ。

しかし、その後コロナ禍に突入し、新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金をもらえなかった物販などの130店のうち約9割が閉店に追い込まれた。その後再び店舗は埋まったが、居酒屋などの割合が増えている。

知れば納得、"餃子"だけではない宇都宮市

ところで根本社長にとって、餃子はライバルなのだろうか?

「餃子に合う紅茶を開発したこともあります。僕ら宇都宮市民の楽しみは、週末に餃子を食べに行くこと。でも、最近は混雑しすぎて行きづらくなってしまったことが、うれしい悩みです」と語る。

昨今、餃子はオーバーツーリズム気味なのだ。根本社長が来客を案内する、人気店を集めた宇都宮餃子会運営の「来らっせ」も週末は数時間待ち。有名店が並ぶ通称「餃子通り」も、私が行った平日の午後2時頃でも5店ある店の1店は売り切れで閉店、残る店も行列ができていた。

餃子通り
行列ができる餃子通りの店(写真:筆者撮影)

実は宇都宮で、餃子による町おこしが始まったのは、平成に入ってからだ。1990年、町おこしのキーワードを探していた市の職員が、宇都宮が総務庁(現総務省)の家計調査で常に上位と気づいたのがきっかけ。翌年、餃子専門店や中華料理店を説得して餃子マップを作成。同年、宇都宮餃子会も発足し、宇都宮を訪れる人が増えていったのだ。

餃子のモニュメント
宇都宮市や宇都宮観光コンベンション協会など15団体でつくる宇都宮観光推進委員会が2022年、餃子通り沿いの民有地に設置した「GYOZAモニュメント」(写真:筆者撮影)

この流れは、根本社長の紅茶普及の取り組みにも通じる。

宇都宮市の顔は、実はたくさんある。2023年8月開業のLRTも全国で2番目で注目を集める。オリオン通りや餃子通り、宇都宮城址公園など観光スポットが集まる西側ではなく、大手企業や大学などがある東側でまず開通している。東側には今、高層マンションが立ち並ぶ。2月10日の朝日新聞記事「地方都市に にぎわい運ぶ 路面電車新時代①」によると、沿線住宅地の価格は約10年で約11%上昇し、人口も8%増加している。

西側は、駅から延びる大通りの一部が片側3車線ずつで広い歩道もあるなど、広めの幹線道路が目立つ。実は宇都宮市、世界の第一線で活躍する選手が集まるジャパンカップサイクルロードレースを1992年から開催している。

つまり、来街者を呼び込む行政の取り組みに、30年来の蓄積がある町なのだ。根本社長はその中で、住民のための町おこしを始めた1人だった。

今、日本は国を挙げて、住民や来街者にとって歩いて楽しい、「ウォーカブル」なまちづくりに取り組む。成功するには、行政と専門家だけではなく、住民の自発的な取り組みが不可欠だ。

実は2022~2024年平均の家計調査で、宇都宮市の紅茶消費量は21位、消費金額は17位と中堅どころに過ぎない。それは、餃子が飽和し過ぎていることを考えれば、ちょうどよいポジションに見える。今後も地道に進め、ぜひ神戸のように「紅茶が当たり前においしい」店を増やしてほしい。

【写真】餃子の街・宇都宮のにぎわいや、"紅茶の街"を目指して開発されたワイズティーの商品など(18枚)
阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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