「餃子」だけじゃない宇都宮。一人の男性がじわりと育てた《町の新しい顔》は餃子のイメージとは異なる意外なもの
根本社長が居心地のよい店づくりを心がけ、熱心に解説した成果もあって次第に客が増え、2008年の売り上げは前年の3倍に伸びた。要因には、紅茶自体の商品力もある。
根本社長の前職は、大手製薬会社のマーケティング部門。しかし、故郷の宇都宮に帰省するたび衰退していくオリオン通りが気にかかり、2005年に10年弱勤めた会社を退職。町おこしを目的に起業した。

駅の反対側の住宅街に暮らした子どもの頃、オリオン通りはわざわざ着替えて通った憧れの町で、「吉祥寺の商店街みたいに人でいっぱいだった」。
どうすれば、にぎやかな町に戻せるのか。思いつく単語を片っ端から5000個も書き連ね、「老若男女誰もが楽しめる」「笑顔になる」「世界にも通じる」「郷土愛が生まれる」「金銭的負担が少ない」など設けた20の条件に当てはめていった。
すると、条件をすべて満たしたのは3800番目の「紅茶」だけだった。
「紅茶不毛の地」で仕掛けた理由
とはいえ、紅茶には神戸や横浜などおしゃれな港町のイメージもある。内陸の宇都宮は長らく紅茶が定着しなかった不毛の地で、大手紅茶会社の重鎮からは「“水がいいから”と宇都宮に進出したうちの会社も撤退したのだから、宇都宮でなく東京で売りなさい」と言われた。
しかし根本社長は唯一条件を満たした紅茶にかけよう、と決める。実は宇都宮市、ペットボトル入りの水道水が、2023年にモンドセレクション金賞に輝いたほど質がよく、神戸や京都と変わらない軟水で、紅茶に適している。先入観にとらわれなければ、浸透する可能性は十分にあった。
根本社長はまず、紅茶スクールでティーコーディネーターの資格を取った。次に仕入れルートを獲得するべく、インド人が経営する高田馬場のカレー店に飛び込み、熱意を伝えて仕入れ先を尋ねる。するとインド食材店を紹介され、と芋づる式にインド人を訪ね歩いてダージリンの買いつけに成功。
商品も最初が肝心、と、全国一のイチゴ生産量を誇る栃木県民に認められるべく、300通りものブレンドを試してイチゴ味の紅茶「ベリー!ベリー!ベリー!」(50g1643円)を開発。
「あえて、世界一のブレンダーが作ったブルーレディを1カ月間隣に並べて売りました」と根本社長。ブルーレディとはイギリス・ロンドンに本社を構える英国王室御用達のコーヒー・紅茶販売会社H .R.ヒギンス社が作っているフレーバーティーだ。

当初「ベリー!ベリー!ベリー!」は、50g分でブルーレディよりわざと100円高くしたが、初月の売り上げはブルーレディの10倍になった。現在は同額にしているが、卸売りも含めブルーレディと1000倍以上も差がつく看板商品になっている。
ティールームを構えられたのも、商品力のおかげだった。当初、店舗オーナーは飲食店営業に難色を示し、根本社長の希望は聞き入れられなかった。
ところが、根本社長が紹介された記事を読み、さらにアメリカ在住の娘から「友達にもらったおいしい紅茶の裏ラベルに、宇都宮と書いてある」と聞いたところへ、再三通っていた根本社長が現れた。そのおかげで晴れて開業が許可されたのだった。
今は、県外からも客が来る。コロナ禍でティールームを閉めた2020年も、地元を含めたワイズティーのファンがインターネット通販で紅茶を買ってくれ、売り上げ全体は横ばいにとどまった。ご当地紅茶など、タイアップ企画の成果もあるだろう。
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