「すみません……。僕はフィードバックとハグ、多分どちらもできていなかったです。それも、花岡さんだけではなく、全員に対して」
フルさんはエスプレッソを一気に飲み干すと、一度上目遣いで僕を見やり、いつもの職業的な微笑みを見せた。
「それと、先ほど『いい買い物をした』と言いましたよね」
「……はい」
労働力を提供するのは「心」がある人間
「経営者は株式市場からお金を調達するように、あるいは卸売市場から原料や材料を仕入れるように、新卒市場や転職市場から労働力を集めてくる。それは事実です。しかし、労働力には、お金や原材料とは決定的に違うところがあります。労働力を提供するのは人間で、人間には心がある、ということです」
「確かに、『買い物』というのはあまりよくない表現でした……」
「経営者にはどうしても、そうやって人をモノと同列に見るような力が働きます。株主の前では、ヒトもモノもカネも、全部数字で横並びになりますから」
「その方がいいと言う人もいますよね。時に非情な決断もしなくてはならない経営者は、共感力が人より弱いぐらいのほうがいい、と。フルさんはそうは思わない、ということでしょうか?」
「実際問題として、人はモノと同じではないですよね。例えば、コピー機は勇気づけなど一切しなくてもコピーを続けてくれますし、それが原因で壊れたりもしません。でも人は違います。私はこれまでいろいろな経営者と仕事をしてきましたが、後に名経営者と呼ばれるようになった人は、全員がそれをよく理解した情のある人でしたよ」
「そうでないと、結局はメンバーがついてこないのかもしれませんね。情に厚い人が、あふれる情を持ちながらも、時に情を押し殺した判断をする。そこに名経営者の凄みがある、ということなのかなと思いました」
◎ハグはそれの正反対で、メンバーが正しい道を進んでいる時に、それをエンカレッジして(勇気づけて)あげること
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