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「マスメディアの敗北」は「ジャーナリズムの敗北」ではない 「信頼回復」と「真実追求」のための「科学と思想」

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  • 武田 徹 ジャーナリスト、専修大学文学部ジャーナリズム学科教授
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アカデミズムの世界で通用する学術論文を一般読者の手にも届けようと工夫をする著者や編集者には頭が下がる。ジャーナリズムにアカデミズムの専門性を取り入れるのも、アカデミズムにジャーナリズムの一般性を帯びさせるのも時間と労力が必要だ。

だが、タイパもコスパも悪いアカデミック・ジャーナリズムが、新たにメリットを担い始めている事情も最後に指摘しておきたい。

マスメディア敗北論から見えた活路

冒頭に書いたように取材内容を記録し、細かく分析する作業に価値を見出していた筆者だが、これも時間と労力がひどくかかる。筆者がジャーナリズムの世界に入った頃、たとえば立花隆氏は「十分に準備して取材に臨めば必要な箇所だけメモが取れる、録音するのは予習不足でメモが取れないダメなジャーナリストだ」とバカにしていたものだ。

だが、「マスメディアがSNSに敗北した」と言われるようになって潮目が変わったのではないか。

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マスメディアのジャーナリストは職業として要領の良い取材活動をし、取材対象と距離を取ることを中立客観報道の条件だと考えている。対してソーシャルメディアのインフルエンサーたちは、自分の言葉で、感情を込めて情報を伝える。そこに真剣味や懸命さを感じるから多くの人がソーシャルメディアの声に耳を傾け、その言説を信じる。

こうした訴求力と信頼性の傾斜状況に対して、アカデミック・ジャーナリズムは真理の追求や公共性実現への真摯さをアピールすることで一矢を報いることができるのではないか(であるので、権力構造の分析をしたかったり、懸命さを印象づけたい場合は、取材の録音データをゆめゆめAIに文字起こしさせないように……)。

アカデミック・ジャーナリズムというと、とかく高踏的な印象を持たれがちだが、それがジャーナリズムの科学性を補強するだけでなく、ジャーナリズムが失いつつある訴求力と信頼性を補う可能性をも担っていることに気づく機会に『アステイオン』の特集がなればよいと考えている。

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