
──「病」ですか。
この本を出した後、一緒に働いていたトレーダーたちが「ギャリーは優秀なトレーダーじゃなかった」と言い始めた。それこそが、僕が言いたいことを示している。金融業界の人たちはこの本を読んでもまだ、「ヤツは自分より上か、下か」ってことしか考えられない。それこそが、この本が書いている「病」そのものだ。
1番であろうとすることに取りつかれると、最終的には「他人を打ち負かす存在」以外の何者にもなれなくなる。
本の中に、僕が同僚や先輩と喧嘩するシーンがいくつか出てくる。鼻と鼻が触れそうなくらいに顔を近づけて。あの場面は、男たちがもっと深く触れ合いたいと思っている裏返しだ。人としてちゃんと誰かとつながりたい、という欲求。だが、競争に取り憑かれている限りそれは不可能になる。誰かと会うたび、「コイツは俺より上か?下か?」って考えてしまうんだから。
これはトレーディングフロアだけの話じゃない。今、多くの若者に起きていることだ。彼らは競争にとらわれすぎて、お互いに本当の意味でつながることができなくなっている。そして、結果的に僕たちは皆、とても不幸になっているんじゃないか。
トレーダーを辞める前から経済に懸念を持っていた
――シティを辞めてしばらく経ってから書いています。
2014年に仕事を辞める前から経済のことを心配していたし、格差の問題にも強い懸念を抱いていた。ただ自分はただのトレーダーで経済の専門家ではなかったし、どうやって「変化を起こす」かなんてまったくわからなかった。
会社を辞めてイギリスに戻ってから、ロンドンのリベラル寄りのシンクタンクで働いたり、格差や経済の仕組みを説明するためのサイトも立ち上げた。が、そうしていくうちにもっとちゃんと勉強しないとダメだと思って、2017年からオックスフォード大学で修士課程をとった。
2020年には『ガーディアン』紙など新聞にも記事を書くようになった。ちょうどコロナ禍が始まった年で、僕は「これは確実に格差がもっと広がるな」と察した。実際、その通りになったので、「何かしなきゃ」という思いが強くなった。それでYouTubeチャンネルも立ち上げ、2022年にはYouTubeに本腰を入れ始めた。「YouTubeこそが、この問題に取り組む手段になるかもしれない」って思ってね。
それまで、自分自身の物語はあまり出さずにいたんだけど、どのように使うのがいちばん効果的なのか、ずっと考えながら、ある意味で温存していたとも言える。
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