「人生を選ばないことは、静かに自分を殺すこと」…哲学者が見抜いた"中年の危機"に陥る人の共通点

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もちろん彼は、就職や結婚などにおいて、彼なりに考え、選択をしてきたと思っていました。ところが、仕事も私生活もうまくいかなくなり、ふと自分の人生に疑問を感じたそうです。

自分の選択や決断が、本当に自分の望むこと、自分自身の価値観に沿ったものではなく、他者や社会の価値観に従っていただけだと気づいたのです。

迷いと再出発の交差点「人生の正午」

また、スイスの心理学者カール・グスタフ・ユング(1875-1961)は、人間の人生を「日の出から日没に向かう旅」にたとえ、40~50代を「人生の正午」と美しく呼び表しました。それはまさに、人生の太陽が真上に昇りきった瞬間――光がもっとも強く、同時にこれからは「沈んでいく時間」に入るという気づきのときです。

ユングは、著書『無意識の心理』の中で「若い人間が外部に見出し、又、見出さざるをえなかったものを、人生の午後にある人間は、自己の内部に見出さねばならぬのである」と述べています。

人生の前半は、「とにかく前へ」と突き進むことで、なんとなく乗り切れてしまいます。

でも、人生の正午を過ぎてからは、「どこへ向かうのか」「なぜそこへ行くのか」を自分で決めなければなりません。

特に、自分で選ばないまま人生の正午を過ぎた年齢になった人は、「このままだと、自分は、自分の人生の主役になれないまま終わってしまう」、もしくは「誰かに与えられたセリフや役割をただまっとうするだけで終わってしまう」といった感覚に襲われるかもしれません。

ほかにも、「自分らしく生きられなかった」「自分の人生を生きていない気がする」という嘆きを抱いている人は少なくありません。彼らに共通しているのは、「重要な場面で、主体的な選択を避け続けてきた」「自分の人生を他人に委ねてしまった」と痛烈に悔やんでいる点です。

哲学カフェにやって来たある女性は、高校時代はピアノコンクールで賞を取るほどの腕前で、音楽大学への進学も視野に入れていました。夜遅くまで練習し、指先が痛くなっても、音楽に向き合う時間は何よりも幸せでした。

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