「人生を選ばないことは、静かに自分を殺すこと」…哲学者が見抜いた"中年の危機"に陥る人の共通点

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しかし進路を決める時期に、両親から「音楽では食べていけない」「将来のことを考えなさい」と言われ、「親を安心させたい」という思いから、安定した銀行員の道を選んだのです。

その後、彼女は銀行で堅実に働き、毎月決まった給料はもらえるようになりました。やがて、銀行の同僚にプロポーズされて結婚して退職。子どもを育て、一見何不自由ない人生を歩んできた彼女ですが、心の内側では常に何かが欠けていました。

「この人生は本当に自分が望んだものだったのか」

子どもが独立し、ようやく自分と向き合う時間ができた50代になって、空虚感はさらに大きくなりました。

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「この人生は本当に自分が望んだものだったのか」という思いを抱えるようになったのです。

表面的には理にかなった選択をし、周囲からは「幸せな人生」と見られていても、彼女の心の奥では常に「別の道」への未練が残り続けていました。そして、「あの時、音楽の道に進んでいたら……」という思いが、年を重ねるごとに強くなっていったのです。

人生は思うようになりませんが、「やらなかった後悔」は、非常に強く残ります。それに加え、「望んでいないことをやってしまった後悔」も、やはり心に残ります。

ピアノを続けなかった「やらなかった後悔」。

親を安心させるために、「望んでいないことをやってしまった後悔」。

50代になった彼女をより苦しめていたのは、どちらの後悔だと思いますか?

自分で考えること、自分で選択することを放棄すると、自分自身の本当の意思や希望とは無関係に、他者の思惑によって引きずられる人生を歩むことになってしまうのです。

小川 仁志 哲学者、山口大学国際総合科学部教授

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おがわ ひとし / Hitoshi Ogawa

1970年、京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後 期課程修了。専門は公共哲学。商社マン(伊藤忠商事)、フリーター、公務員(名古屋市役所)という異色の経歴を持つ。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職。大学で新しいグローバル教育を牽引する傍ら、「哲学カフェ」を主宰するなど、市民のための哲学を実践している。また、テレビをはじめ各種メディアにて哲学の普及にも努めている。NHK・Eテレ「ロッチと子羊」では指南役を務める。
『手塚治虫マンガを哲学する 強く生きるための言葉』(リベラル社)や『ざっくりわかる8コマ哲学』 (朝日新聞出版)など、100冊以上出版している。

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