〈公文書管理〉国立ハンセン病資料館は所有を否定。消えた「癩(らい)患者徴兵検査書類」の行方

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2017年以降、戦前、戦中のハンセン病患者と戦時体制との関わりを調べていた筆者が、かつて元患者らによって運営されていた「自治会図書館」の史料目録を入手したのは2021年のことだった(下写真)。

旧自治会図書館の史料目録。戦時期の史料などが多数保管されていた(撮影:筆者)

自治会図書館はその旧建屋が多磨全生園の敷地内に残存するが、国立ハンセン病資料館の整備に伴い、運営が終了した。

入手した目録に記されているのは、2007年の国立ハンセン病資料館の開設に伴って閉鎖された自治会図書館の収蔵史料で、次のようなタイトルのものが含まれていた。

「秘 昭和10年以降 収容患者兵事関係書綴」

「秘 自昭和11年 至同 癩患者徴兵検査関係書綴」

「昭和16年7月以降 収容患者兵事関係書綴」

「自昭和16年 至同 癩患者徴兵検査関係書綴」

「昭和19年 収容患者兵事関係書類綴」

現在でも戦時中の徴兵や軍属の動員についての戦中史料はきわめて乏しく、かつて故・家永三郎氏が入手したものを編纂・刊行した『支那事変大東亜戦争間動員概史』などに限られている。ましてやハンセン病患者と徴兵との関係を示す史料については世の中にまったく知られていないと言ってもいい。その意味でも、これらの史料は現在までに複数の関係者によって現存が確認された「きわめて稀少性の高い歴史的史料」として期待できるものだった。

患者と戦争の関係を物語る重要史料

こうした史料は、「戦後、管理側によって廃棄されていたものを元患者自らが回収し、自室などで保管して守りつないできたもの」(当時を知る関係者)。全生園における元患者の苦難の歴史を物語る史料だった。

「そうした自治会図書館の史料は、ハンセン病資料館の整備にともなって寄贈、移譲された」。生前、元患者らの活動を積極的に支援していた東洋大学の柴田隆行教授(2021年に逝去)は「そう記憶していた」と、筆者に語っていた。

そこで筆者は2021年以降、国立ハンセン病資料館に、何度も調査協力を要請。併せて史料の所在確認を行ってきたが、「お尋ねのようなタイトルの史料は存在しない」との回答が返ってくるのみだった。

一向に埒があかないことから、筆者は最後の手立てとして今回、正式に厚労省に情報開示請求をした。しかし残念な結果となった。「事務処理上作成又は取得した事実はなく、実際に保有していない」(2025年4月4日付)という通知があったのである

筆者宛ての厚生労働省による不開示決定通知。文書を取得した事実がないとしている(撮影:筆者) 

前出の柴田教授は筆者に、「すでに国家賠償訴訟の和解からも時間が経っている。(こうした史料の)公開について、そこまで時間をかける必要はないのではないか」と語っていた。その柴田教授自身、史料類の公開を期待していた。柴田教授は最期まで「史料は国立ハンセン病資料館に収蔵されている」と認識していた。

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