ドイツ次期政権は躍進した「右派AfD」抜きで成り立つのか?現地で各党を直撃!右派を避けつつ移民対策を取り込むアンビバレントな舵取りの行方
A氏によれば、AfDを弱体化させるには、移民政策が決め手になるが、上述の5項目プランのように、すでにCDU・CSUはAfDの政策をかなり取り入れている。
他方、SPD主導のショルツ政権は、不法移民の送還を進めるなど対策を強化してきたが、国境で不法移民を追い返すなどの措置には反対してきた。新たにSPD党首の座に加え、下院院内総務(議員団長)となったラース・クリングバイル氏が、メルツ氏との協力関係で、どれくらい柔軟性を発揮できるかを注目しているという。
また経済政策についても、「CDU・CSUは減税、労働コストや社会福祉削減などの供給サイドの改革、SPDは社会保障や企業補助金の増額など需要サイドの改革と正反対。顕著な変化が期待できるかどうかというと懐疑的」との見方を語った。
メルケル政権時の大連立は、メルケル氏がリベラル色の強い政治家だったのでうまくいった面は大きい。メルツ氏は経済社会政策、移民政策で保守色が強く、SPDとの齟齬は大きい。
連立政権へスピード合意も舵取りは困難
2月28日にCDU・CSUとSPDとの間で始まった、連立政権樹立に向けた予備交渉は、3月8日に合意に達し、基本的な政策課題に関する合意点をまとめた文書を発表した。
難民申請者も含む不法入国者を、隣国と協議のうえ、国境で追い返すことを可能とするなどの国境管理の強化、インフラ整備のための特別基金の創設などを内容とする。
アメリカのトランプ政権が矢継ぎ早に、対ウクライナ政策などで、これまでの常識を覆す外交政策を繰り出す中、ヨーロッパ主要国のドイツは一刻も早く新体制を整えねばならない。また2年連続でマイナス成長に陥った経済の再生も待ったなしとなっている。
この危機感は主要政党間で共有されており、通例数カ月はかかる連立交渉が異例なほどの速度で進んでいるのはその現れだ。
3月25日まで(選挙後30日以内)に新議会が招集されるが、それまでにCDU・CSU、SPD、緑の党が3分の2を確保している「旧議会」で、軍事費増額やインフラ整備のための特別基金設置の採択のために、「債務ブレーキ」(財政均衡を義務付けている憲法規定)を修正する動きも進んでいる。
ただ現地での取材で得た感触は、新政権の政権運営は相当困難な舵取りが予想されることだ。自信を深めているAfDや左派党が影響力を強めるだけでなく、野党になった緑の党も、移民対策強化や環境政策の後退に反発するだろう。
アメリカが「ルールに基づく国際秩序」を軽視する行動をとり始めた今、日本にとって、価値を同じくするヨーロッパの重要性は高まっており、ドイツ政治の安定性をこれまで以上に注視していく必要がある。
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