野口聡一がJAXAを「定年前退職」して築く独自路線 思い切って辞めたからこそ広がった世界がある

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世界をリードする大物政治家、名だたる大企業の経営者に交じって、これからの世界を変えるような活動をしている若い研究者、スタートアップ起業家と交流できたことは非常に大きな刺激になりました。

宇宙飛行士をしているとき、世界中の首脳を宇宙に連れて行って国境のない地球を見せたら、いろんな問題が解決するのでは、と思っていました。それが今、ダボス会議を通じて実現しているんだと思います。地球環境に限らず、国際経済、そしてAIの功罪もディスカッションしています。これも、JAXA職員のままでは得られない経験です。

新しい扉を開けるため組織の肩書きは捨てた

宇宙ビジネスに関する仕事もそうです。

この10年で、急激に宇宙産業の規模が拡大してきました。2017年試算では2040年時点で1・1兆ドル(当時の1ドル=128円換算で140兆円)に拡大すると予測されたのが、2024年春に世界経済フォーラムが発表したレポートでは、2035年末には1・8兆ドル(1ドル=160円換算で288兆円)まで膨れ上がっているのです。

成長分野も、それまで主体だったロケットや衛星などの宇宙インフラそのものでなく、衛星データや通信、GPSなど宇宙利用の急速な拡大が従来の「非宇宙産業」にもこれまでにない成長をもたらすと予測されています。

私は、スペースXの民間宇宙船に日本人として初めて搭乗し、それまでの数年間、スペースXに通って内情をつぶさに見てきました。例えば、世界の人工衛星の打ち上げ数を見てみると、2013年には年間約200だったのが2022年には2368。うち約1600がスペースXの運用する衛星通信サービス「スターリンク」の衛星です。

私は長いアメリカ滞在中に、この宇宙ビジネスのダイナミックさを身をもって実体験してきました。

宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職
『宇宙飛行士・野口聡一の着陸哲学に学ぶ 50歳からはじめる定年前退職』(主婦の友社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

こうした知見を日本の民間企業や国際的な舞台で生かすには、JAXAの肩書きにしがみついたままでいるより、思い切って外に出て自由に活動する方がよほど理にかなっていたと、あらためて思います。

もしかすると、みなさんの中には、私の現在の肩書きを見て、「野口さんはいい大学を出て、ほんの一握りしかなれない宇宙飛行士になれて、引退しても当然、門戸はひらかれているだろう」という印象を持たれている方もいるかもしれません。

しかし前記事でもお伝えしたように、私は自身のキャリア形成について10年にわたって悩み続け、考え抜いた末に「定年前退職」という重大な決意をしました。安定した収入と人間関係とキャリアを、定年3年前にしてリセットし、私自身の棚卸し作業の末に、いまある道を選んだのです。

【前の記事】宇宙飛行士が50代を前に直面「行き詰まり」の苦悩

野口 聡一 宇宙飛行士

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のぐち そういち / Soichi Noguchi

博士(学術)。1996年5月、NASDA(現JAXA)の宇宙飛行士候補者に選抜、同年6月NASDA入社。2005年スペースシャトル「ディスカバリー号」で、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在、3度の船外活動をリーダーとして行う。2009年、ソユーズ宇宙船に船長補佐として搭乗。2020年、日本人で初めて、民間スペースX社の宇宙船に搭乗、約5か月半、ISSに滞在した。4度目の船外活動(EVA)や、「きぼう」日本実験棟における様々なミッションを実施し、2021年5月、地球へ帰還。主な著書に『どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと』アスコム刊がある。

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