野口聡一がJAXAを「定年前退職」して築く独自路線 思い切って辞めたからこそ広がった世界がある
日本社会では、「社会人」イコール「会社人」になりがち。会社の中のポジションがそのまま人間のステータスになってしまう。これは非常に危険なことです。
だって「あの部長の方が課長よりも人間的に優れている」なんて単純な優劣は全然あり得ないわけです。単に職責が上にあるだけですから。でも、なんとなく場の支配力のせいで、人格的にも支配されてしまう。
自分の肩書きを自分で決めるって、大事なことだと思うんです。自分の価値を見いだすための「棚卸し」につながるからです。
転職にテンプレートはない
退職を前に、国内外の先輩宇宙飛行士から話を聞いたところ、国によって転職先は実にさまざまでした。
アメリカの場合、宇宙飛行士は軍出身者が多いものですから、出身母体の空軍や海軍に戻るケースがよくあります。ほかにも、大学教授のような公的機関でポジションを得るとか、宇宙関連企業のような民間企業に転身して重役に就くようなケースもあり、実にバラエティに富んでいます。
一方、日本人の退役宇宙飛行士は博物館の館長、大学教授のように公的機関への転職が多い傾向にあります。
私の場合、自分の経験や見識、発言が新しいシナジーというか、思いも寄らない形で生かされることにすごく興味がありました。現在、いろんな人や企業と一緒にさまざまな課題解決に取り組んでいます。また大学の仕事で関わっている若い世代の発想力もすごく刺激的で、研究職の仕事も大事にしています。
現役引退した私に企業から舞い込む依頼といえば、「コミュニケーションスキル」や「組織作り」。ビジネスに直結するテーマに沿った仕事が多くあります。
結局、私は退職後に10種類以上の職名を並列しながら活動しています。こんな例は極めてまれでしょうね。転職の際には、先輩たちの例も参考にしましたが、百人いれば百通りのセカンドライフがある。転職にテンプレートはなく、オリジナルケースだと思っています。
私の現在の主な仕事は以下の通りです。多種多様な職種を選んでいますが、それぞれに私なりの「棚卸し」に基づく結果が反映されています。
・民間企業系シンクタンクの最高技術責任者として、主に気候変動問題を解決するための技術開発を支援するとともに、産官学連携で循環型社会を目指すための政策提言を行っています。
・宇宙関連企業のアドバイザーとして、経営層への最新宇宙開発状況の諮問を行うとともに、若手社員への教育・啓発に努めています。
・私立大学の学長特別補佐として、大学における宇宙地球探査研究センターの活動への支援を行っています。
・各種国際機関において、国際協力および技術開発動向に関する助言を行っています。
現役時代に比べると活動の場がかなり多岐にわたっています。宇宙飛行士の経験を社会にどう生かすかを考え、いろいろな場で仕事をしています。
例えば地球環境問題。自分が宇宙で見た地球の美しさを伝えることを通して、気候変動の課題に取り組んでいます。政財界の賢人が一堂に会する「世界経済フォーラム」の年次総会「ダボス会議」に参加する機会も得ました。
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