野口聡一がJAXAを「定年前退職」して築く独自路線 思い切って辞めたからこそ広がった世界がある

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他人の自由を束縛することが管理だと思っている人と、束縛されることに馴染んでしまう人。お互いがウェットに縛り、縛られてしまう関係……。そんな人間関係に閉じ込められていたかと思うとぞっとします。そこからなんとかして脱出できたことは本当に幸福なことだと思います。

一方で、実際に辞めてみて、初めて分かった不便さもありました。

退職をすると、JAXAの名刺が使えなくなりますが、それよりも、JAXAのメールアドレスが使えなくなるのは影響が大きかった。

JAXAのメールアドレスは業務用ですから、退職したら使えなくなるのは当然なのですが、それで、仕事上お世話になっていた人たち、職場での知人たちと連絡する手段が一気に絶たれてしまうのは、社会から一気に切り離された気がしました。

退職の翌日にはもう一切メールサーバーにアクセスできないですから、それまでの連絡先も全部使えなくなってしまいました。私用のフリーメールアドレスを取得して、併用しながらやってはいたものの、退職時は大変困ったことになりました。

同様に、業務用のパソコンや業務用のスマホも退職日にすべて返却です。スマホは業務用スマホと私用スマホを使い分けていたとはいえ、圧倒的に扱う時間が長かった業務用スマホがなくなるのは困ったものです。

そして、健康保険。こちらも国民健康保険に切り替えないといけません。退職者がみな通る道とはいえ、市役所に出向いての書類作業は結構面倒でした。

こうした話は、先輩から聞いていたことばかりでしたが、実際にこれほど不便になるとは思いも寄りませんでした。

だからこそ、会社に居続ける方が楽なのかもしれません。

手書きのメッセージ
野口聡一さん直筆のメッセージ(画像:主婦の友社)

それでも、「やっぱり1年後に辞めよう。本格的に職探しをしよう」と腹をくくると、それまで「どうする? 辞める? どうする?」と悩みに悩んでいた不安が和らいできて、気分的に一歩先へ進んだ気持ちになったのを覚えています。

「辞めるか、辞めないか」から「辞めよう。そして次をどうする?」へとステップを踏み出す。すると、明確に世界が変わります。「今いる職場に自分の未来はない」と決めたとき、スパッと切れた瞬間から、ようやく次へ踏み出せるのです。

逆に言えば、職場の持つ支配力はそれくらい、強烈。日本の社会が持つ支配力ですね。それでも辞めると決断し、その場から離れると、それはものすごい解放感があって、心身ともにリフレッシュしたものでした。

肩書きとは「個性のキャッチコピー」

2022年6月1日付けでJAXAを退職した私の肩書きは、「JAXA宇宙飛行士」から「宇宙飛行士」に変わりました。宇宙に行ったことがある人、という意味で、一般名詞の「宇宙飛行士」が使えたのは助かりました。

一方で、JAXA在職中、すでに東京大学特任教授に就任していましたが、「その肩書きは名乗ってはいけない」と言われていました。

自分が作った会社(合同会社未来圏)の肩書きも公にできませんでした。退職を待たないと、自分自身で決めた肩書きを前面に出すことは、かなうことがありませんでした。

肩書きについて、少し考えてみましょう。

肩書きとは、一義的には、所属する組織内の役職名を指します。退職して組織を離れたら、その肩書きはなくなりますからね。興味深いのは、肩書きが自己表現の一つになっているケースがあることです。

例えば、「ライフコーディネーター」という肩書きを名刺に載せている人がいます。組織の属性ではなくて、個人の特性を的確に表現していて、最も短いキャッチコピーになっています。

私の使っている「宇宙飛行士」も、自分を表現するキャッチコピーなんですね。組織を離れたからこそ、自分のキャッチコピーを自分で作り、使えるようになりました。

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