アップルが関税分を負担すれば、同社の利益が減ってしまう。そこで販売価格に転嫁する。その結果、アメリカでのiPhoneの販売価格が上がる。アメリカの対中関税は、このような形で自国の消費者の負担につながる。
それだけではない。iPhoneは全世界で販売されている。だから、アメリカの価格だけを高くするわけにはいかない。
もし日本で販売されるiPhoneの価格が低いと、日本からアメリカにiPhoneを輸出することになるだろう。したがって、全世界的に販売価格が上昇する。
iPhoneをアメリカで作ることはできない
ここで重要なのは、関税がかかったからといってiPhoneをアメリカで製造するのはほぼ不可能ということだ。
かつて、アメリカの製造業は自国内で生産していた。アップルもかつてはアメリカ国内でPCを生産していた。しかし2000年ごろから、設計はアメリカ国内で行うが製造は中国をはじめとするアジア諸国で行う方式に転換した。いわゆる「ファブレス化」だ。これによって、アップルは小さなPCメーカーから世界一の企業に成長した。
同社は「Mac Pro」などごく一部の製品についてはアメリカで製造しており、その他の製品も国内生産が完全に不可能というわけではない。しかし、コストやサプライチェーンの問題から、広範囲にわたる製造移転は非常に難しいと考えざるをえない。
実際、Mac Proの場合も、“Made in the USA”をうたったものの、専用ネジのアメリカ国内での製造が難しかったため、発売が遅れたというエピソードがある。
アップルだけでなく、アメリカの製造業の多くがファブレス化した。つまり、自社では設計などを中心に行い、製造は他国の受託企業に任せる。それによって、安い労働コストで生産できるようになった。アメリカの経済発展は、このような転換によって実現された面が大きい。
もし対中関税が永続すると考えれば、アップルはアメリカ国内での生産を再開するのでなく、中国を中心とする現在のサプライチェーンをほかの地域に移していくことになる。主として東南アジアに移していくだろう。
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