当時、昼夜逆転の生活をしていた山田さん。いつも夜の7時ごろから翌朝の8時ごろまで仕事をしていたという。
家族はすでに就寝していたが、あまりの痛みに耐えられず、妻を起こして背中をさすってもらった。ところが痛みはどんどんひどくなり、脂汗が出てくるほどに。子どもが救急車を呼んでくれたという。
「救急隊が到着すると、すぐ『循環器系だね』と。痛みがひどいので痛み止めを点滴で入れてもらいながら病院に運ばれました。病院に着くやいなやストレッチャーに乗せられ、そのときに医師に『キトクだ』と言われたんです」(山田さん)
最初は意味がわからず、「どういうことですか?」と聞いた山田さん。すると医師は「生死の境にいるということです」と、淡々と答えたという。「ホントに、びっくりしました」と山田さんは振り返る。
ただ、体に異変はあった。検査の同意書を書くように言われてペンをとったものの、字が書けなかった。「脳自体は生きているのに、体につながっていないような感じでした。仕方なくそばにいた妻に書いてもらいました」(山田さん)
ドクターカーで大きな病院へ
結局、その病院では治療ができないということで、医師に付き添われてドクターカーでもっと大きな病院へ。搬送中にも再び医師から死亡するリスクがあることを告げられた。
幸い循環器系に強い大病院へ無事にたどり着くことができた山田さん。そこで自分の身に起きていたことを知る。診断された病名は、なんと死亡リスクが非常に高い「大動脈解離(かいり)」だった。
大動脈とは、心臓から送り出された血液が最初に通る最も太い血管のこと。外膜・中膜・内膜の三層に分かれているが、何らかの原因で中膜が裂けて外膜との間に血液が流れ込んで、膨れあがった状態を大動脈解離という。外膜まで破れると、血管破裂によって命を失うこともある。
大動脈解離をもっとも発症しやすい年齢は、男女とも70代。危険因子には高血圧、動脈硬化、脂質異常症、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、喫煙、ストレスなどがある。
「そこそこ年齢が若いし、上の血圧(拡張期血圧)は130mmHgと、さほど高くなかったので、大動脈解離と診断されて驚きました」(山田さん)
医師の説明によると、通常は直径30mmほどの胸部大動脈が、45mmまで膨らんでいたという。外膜が破れなかったため、血管破裂まではいかなかった。すんでの所で助かったのだ。