「京アニ事件」報じられなかった被告の病的体験 「社会的孤立」に限定されない複合的な原因があった?

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事件の1つの背景として、社会的孤立があることはほぼ間違いない。つい先日起きた長野駅前での殺傷事件でも、容疑者は無職で一人暮らしの中年男性だと報じられている。また、これまでの無差別殺傷事件などを見ても、容疑者はいずれも社会的に孤立し、人生に絶望した「無敵の人」であった。

したがって、雇用対策や孤立防止策をこれまで以上に徹底的にやるべきであることは言を俟たない。しかし、それだけで京アニ事件が防止できたかと言えば、それは無理であろう。なぜなら、先に述べたように、この事件では、精神障害の影響が無視できないからだ。

ここで重要になってくるのは、「精神障害を持って孤立している人」への支援である。このような二重三重に脆弱性を有する人は、社会から見落とされ、見捨てられやすい。

社会全体を守るためのセーフティネット

たとえば、青葉被告は事件前の長い期間、訪問看護師に粗暴な言動を取った結果、精神科の訪問看護を断り、服薬も中断していた。

もし彼に家族や親密な関係の友人がいたなら、また福祉的なサポートがもっと手厚くなされていたなら、訪問看護を受け続け、服薬を続けるように説得することもできた可能がある。「厄介な人」を放置すれば、ますます「厄介」になって、自殺や事件のような最悪の結果を招くことになってしまう。

深刻な孤立や障害のある人を見落とさず、見捨てない。このような社会の「セーフティネット」は、その当事者を守るだけでなく、社会全体を守る機能も果たすのだということをわれわれはいま一度確認する必要があるだろう。

原田 隆之 筑波大学教授

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はらだ たかゆき / Takayuki Harada

1964年生まれ。一橋大学大学院博士後期課程中退、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校大学院修士課程修了。法務省法務専門官、国連Associate Expert等を歴任。筑波大学教授。保健学博士(東京大学)。東京大学大学院医学系研究科客員研究員。主たる研究領域は、犯罪心理学、認知行動療法とエビデンスに基づいた心理臨床である。テーマとしては、犯罪・非行、依存症、性犯罪等に対する実証的研究を行っている

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