「京アニ事件」報じられなかった被告の病的体験 「社会的孤立」に限定されない複合的な原因があった?

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したがって、事件直後の私の見解も、どうしても「社会」的要因に偏った分析となってしまっていた。当時被告は無職で対人関係も希薄であり、社会的孤立が深刻であった。これはいずれも犯罪の重要なリスクファクターであることから、こうした被告の置かれた「社会」的状況をもとに事件を分析した。

そして事件から4年以上経ち、判決言い渡しが間近に迫った時期に、私は朝日新聞大阪本社から、それまでの公判の全逐語録の送付を受け、それを読んでの意見を求められた。

私は10時間以上かけてその膨大な記録を熟読し、特にメディアではほとんど報じられることのなかった被告の幼少時からの生活歴や精神鑑定の結果、被告のパーソナリティなどを丹念に読みこんだ。

犯罪心理学では、犯罪行動を「生物・社会・心理モデル」によって分析する。つまり、これら3種類のカテゴリーの要因から多角的に事件との関連を見ていくということだ。具体的には、以下のような要因が含まれる。

【生物】遺伝、器質、医学的要因
【社会】生い立ち、家族関係、友人関係、職場関係、より大きな社会的要因
【心理】パーソナリティ、価値観、態度

事件直後の分析を修正することに

先に述べたように、どうしても事件直後の分析は、社会的背景に重点を置いたものになりがちだった。

しかし、裁判記録を読む中で、そうした分析は大きく修正を余儀なくされた。それは精神鑑定によって明らかにされた「生物」的要因がきわめて重要だと思われたからである。 

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