「玉砕を許されなかった兵士」知られざる沖縄戦 『戦場の人事係』を書いた七尾和晃氏に聞く

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──七尾さんは沖縄に関して、『沖縄戦と民間人収容所』、『琉球検事──封印された証言』という著書も出しています。世の中の人たちの語りは必ずしも理路整然としたものではなく、時期や前後の文脈が矛盾していることも少なくありません。そうした人たちのメッセージをどのように受け止め、どうやって事実関係を把握し、作品に仕上げていくのでしょうか。

向き合ってくださる方と呼吸を合わせることにいちばん時間を費やします。それを最も大切にすべき部分だと考えています。

たとえば戦争体験といっても人それぞれですし、価値観によって戦争のとらえ方は異なっています。

机の上の「りんご」といっても、必ずしもこちらが示しているものと同じりんごを指しているかどうかはわからない。ゆえに、その人の持つ価値観やその人が歩んできた人生について、自分なりに理解するという作業が必要になります。

人間は皆、それぞれの価値観に立脚して物事を理解し、判断するからです。話される相手の価値尺度に則って初めて、証言は第三者にとって理解しうるものとなると考えてきました。

そのうえで、その人から思いがけず出てくる言葉を待ちます。あれこれ尋ねるというよりも、その人から漏れてくる何気ない、素直な言葉こそが重要だと考えるからです。

自分自身の五感でとらえ、証言を消化する

──長丁場になりそうですね。

石井氏との関係でいうと、彼が亡くなられてからも私自身は取材を続け、ようやく今回、著作にすることができました。石井氏が重い体験をしたガマにも季節を変えて何度も足を運び、この季節にはこういう風が吹き、こういう場所だったのだという「現場の風土」を納得できて初めて、活字にできると思ったからです。

多くの兵士や民間人が命を落とした沖縄本島南部の断崖絶壁を登ったり降りたりしたのもそのためです。証言の背景にある感情や体験を自分自身の五感で捉えて初めて、やはり証言は消化しうるものになるのではないでしょうか。

七尾和晃氏の沖縄に関する3部作。埋もれた歴史を掘り起こした(撮影:今井康一)

──石井氏との出会いは。

沖縄戦での収容所体験をした方で、まだ健在の方を探していました。靖國神社の「靖國偕行文庫」でいろいろな方がつづった太平洋戦争時の手記を調べていたところ、沖縄本島南部戦線の生き残りの方の手記を見つけました。それが石井氏との出会いのきっかけでした。

その後、住所が判明し、取材協力をお願いしたところ、石井氏は当時、95歳でしたが、「お会いしましょう」ということで、新潟県の自宅を訪問しました。

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