「ノウハウを欲しがる病」で可能性が潰されている 成功や失敗という概念はそもそも「空虚」だ

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それなのに、その血筋と伝統をからめて事実であるかのように讃嘆したがる人が多いから、中身が何もないのに世俗的な権威でカネ稼ぎを容易にしている芸能や家系が成り立っている。そして、不幸なことに、それが日本の日本らしさの構成要素になっている。

失敗への恐れのほうが、怖い

成功と失敗という固着観念はさまざまなバリエーションに形を変えてはびこっている。

特に、成功は善であり、失敗は悪だという奇妙な倫理にまで化学変化をし、もっとひどいことに人間の上下をそれで決めるという風潮さえ生んでいる。若者たちがホームレスの人にカジュアルに虐待、暴行をするのはホームレスを失敗者、つまり力の弱い悪人とみなすからであろう。軽蔑、差別、えこひいきもこの固着観念から生まれたものだ。

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そもそも、人間のなすことのすべてを簡単に価値づけることなど不可能なのだ。物事の善と悪の判断すら、ほぼ不可能だ。しかし、暴力は悪であろう。生命の否定だからだ。善はどうか。何を善行とみなすか、容易に判断できるだろうか。これも困難だ。誰かにとってつごうのいいことを勝手に善と呼ぶ場合もしばしばあるからだ。

成功/失敗のうちの失敗を異様に恐れる気持ちがあるからこそ、方法論やノウハウを探しまくる人が多い。何をするにしても、既成の手順やノウハウをまず見つけてから取りかかろうとするのである。

恋愛や結婚やセックスのノウハウまであり、それを商売にしている詐欺師(さぎし)も少なくない。そして、ノウハウがあらかじめ見あたらないと落ち着かなく不安になる。いつか失敗するのではないかと内心恐れているからだ。

ノウハウを欲しがる病(やまい)にかかっているから、いつまでたっても主体的に行動できないようになる。主体的に行動できないということは、自分で新しいものを発見できないということだ。なぜならば、ノウハウを欲しがるとは、前の人が歩いたあとをその通りに安心して歩いていきたいということだから。そんな気弱な人に独自の人生がどうして送れようか。

つまり、ノウハウを求めるのは、自分だけの人生の可能性をていねいにつぶしていくことにつながるのだ。

白取 春彦 作家

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しらとり はるひこ / Haruhiko Shiratori

1954年青森県生まれ。ベルリン自由大学にて哲学・宗教・文学を学ぶ。哲学と宗教に関して、明快で痛快な論評に定評があり、ベストセラー『超訳 ニーチェの言葉』(ディスカヴァ―・トゥエンティワン)のほか、『超要約 哲学書100冊から世界が見える!』(三笠書房)、監修に『図解 「哲学」は図で考えると面白い』(青春出版社)など著書多数。

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