ドンキ「ほぼバイトで営業」店を密かに増やす事情 昨年10月から実験開始、現在は都内5店で展開

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ドンキでも初の試みだっただけに、「不安もあった」と本巣氏。メイトには幼い子どもを持つ母親も多く、長時間残業や時間・曜日の不規則な勤務が難しい人も多い。オペレーションや人材配置が乱れてしまえば、売り上げに与える影響は大きい。

しかし、そうした心配は今のところ杞憂に終わっている。すべてのカテゴリーで売り上げが前期実績だけでなく計画値からも上ブレ。特に効果の大きかった食品では、前期より3~4割も売り上げが伸びている。

メイト主体の運営となって、食品売り場の売り上げは前期比3~4割伸びた(記者撮影)

「『メイトだから』という理由で埋もれてしまっている才能が多かった」(本巣氏)。責任が増える分、処遇も上げており、「MDプランナーになったメイトの中には、時給が一気に250円上がった人もいる」(同)。そのため店舗の人件費の額自体は旧体制とさほど変わらないものの、増収効果によって経費率は大きく改善されたという。

北千住西口店でMDプランナーとなった原田舞子さんは、「とにかく楽しい。従来であれば社員が担当する催事ものについても、いつから何をやるか、目標数字はいくらか、ということを自分のやりたいようにできる」と語る。

別のメイトは、常駐する社員がいなくなってから「何か問題が起きても基本的にメイトで解決しなければならず、メイト同士のコミュニケーションも増えた」と話す。売り場作りなどを相談する機会が増えただけでなく、子どもが急に体調を崩したときのシフト調整などの相談もしやすくなったという。

「メイト店長」の検討も進む

すでに北千住西口店をモデルに、メイト主体運営店は広がりを見せている。北千住西口店の店長が店長を兼務する鶯谷店のほか、同じ支社内の西新井駅前店、竹の塚店、さらに他支社の赤羽東口店でも同様の体制が始まった。赤羽東口店では、「メイト副店長」も誕生した。

ドンキ創業者の安田隆夫氏がこの取り組みに注目、後押ししていることもあり、別の都内の店では、店長をメイトに任せる検討も進んでいる。

メイト主体運営店は当面、北千住店のように売場面積1000平方メートル前後の狭小物件に限られそうだが、「通常サイズや(同1万平方メートル前後の)MEGA業態でも、一部部門はメイト主体に移行する、ということも考えられる」(本巣氏)。

小売各社にとって正規、非正規問わず、人材確保の難易度は年々増している。今回、注目したドンキの「メイト主体」店舗は、限られた人材を雇用形態にとらわれずに登用している。業界でも先駆的な取り組みといえるだろう。

冨永 望 東洋経済 記者

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とみなが のぞむ / Nozomu Tominaga

小売業界を担当。大学時代はゼミに入らず、地元密着型の居酒屋と食堂のアルバイトに精を出す。好きな物はパクチーと芋焼酎。

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