大谷選手の記者会見が「成功」を収めた3つの理由 「自分の言葉」で話すことから生まれる真摯さ

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第2は、オーセンティックに語ることで、感情移入のしやすい、自然な情緒性がそこに生まれることだ。舌鋒鋭く非難する口調や、劇的な表現、激しい怒りの感情を込めた言葉が、その狙いの通りに機能することはない。……皆さんは国会の政治家の弁論に心を動かされたことが、あるだろうか。本来、そんな様子では人々の支持を得られないはずなのに、その話しぶりから脱せられない老人たちの様子を見るに、私たちの国家の中枢機関が機能しているのか不安になるが――それはさておき。大谷選手は、自然体な語りによって、情緒面でも人々の前向きな評価を取り付けることに成功しているのだ。

私たちは最初から、大谷選手は無実だと決めていた

だが、今回の大谷選手の記者会見が大きく成功した理由は、もっと別のところにある。そしてこれこそが、オーセンティックにあることの、第3の、そして最大の強みなのだ。

今回の大谷選手の騒動、大谷選手が記者会見を自ら開くとなったとき、皆さんはその報を聞いたその時点ですでに、大谷選手は無実だと、判断をつけていたのではないだろうか。

私たちの脳には実に都合のよい機能がある。確証バイアス、という。私たちは、見たいものしか見ないし、聞きたいようにしか人の言葉を聞かないのである。大谷選手はそんな人じゃない、大谷選手は無実であってほしい、無実であるべきだ……そのような姿勢で、多くの方は記者会見を見たのではないだろうか。……だとすれば、その結果は明らかだ。私たちは何を聞いたところで、自分たちの都合の良いようにしか解釈しない。大谷選手が無実であるという前提のもとに話を聞くのだから、多少の疑念など、吹き飛ばされてしまう。

――ではなぜ、私たちはそのような態度で、大谷選手の会見を聞いたのか。それは、大谷翔平という人物が、常日頃からオーセンティックであったからだ。誠実に競技に打ち込み、飾りのない素直な言葉を使い、仲間を大切にし、人々への感謝や敬意を忘れない。大谷選手の日ごろからの言動がそのようなものであったことが、こうした局面で、彼の言葉に力を持たせたのである。

オーセンティックであることの、第3の強みは、人格的に尊敬・信頼されるようになることである。この、論理性、情緒性、人格性を、かのアリストテレスは説得の3要素とした(ロゴス・パトス・エトス)。

(出所)中川功一『経営学者×YouTuber×起業家の著者が教える 一生使えるプレゼンの教科書』東洋経済新報社

京セラ、KDDI、JALと3つもの会社経営を成功させた稲盛和夫は、主著『生き方』において、次のように語っている。 

“私の成功に理由を求めるとすれば、(中略)私には才能は不足していたかもしれないが、人間として正しいことを追求するという、単純な、しかし力強い指針があったということです”『生き方』より 

日ごろから正しくあること。この言葉の前には自己反省しかないが、その大切さを改めて思い起こさせる、大谷選手の記者会見だった。 

中川 功一 経営学者、やさしいビジネスラボ代表取締役

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なかがわ こういち / Koichi Nakagawa

1982年生まれ。2004年東京大学経済学部卒業。08年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士(東京大学)。大阪大学大学院経済学研究科准教授などを経て独立。現在、株式会社やさしいビジネスラボ代表取締役、オンライン経営スクール「やさしいビジネススクール」学長。専門は経営戦略、イノベーション・マネジメント。「アカデミーの力を社会に」を使命とし、経営スクールを軸に、研修・講演、コンサルティング、書籍や内外のジャーナルへの執筆など、多方面にわたって経営知識の研究・普及に尽力している。YouTubeチャンネル「中川先生のやさしいビジネス研究」では、経営学の基本講義とともに、最新の時事解説のコンテンツを配信。

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