子どもを幸せにする非認知能力「創造性」の育み方 「目に見えない世界」に心を遊ばせよう

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例えば、こちらは19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの素朴派の画家、アンリ・ルソーの「眠るジプシー女」という作品。草一本生えない不毛な砂漠で、月明かりの中、1匹のライオンが疲れ果てて眠るジプシー女に近づいている絵です。教室では、子どもたちにこの絵をじっくりと鑑賞してもらい、どうしてライオンが女性に襲いかからないのか? その理由を想像して説明文を書く、という課題に取り組んでもらいます。

『10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリル』より「眠るジプシー女」のページ抜粋

非認知能力は、人生を豊かにしてくれる一生ものの財産

子どもたちが考え出す「理由」は千差万別。「ライオンはお腹がいっぱいで、獲物に興味がないのだろう」と考える子や、「このライオンは年寄りで、目もあまり見えず、鼻もきかないからジプシー女に気づいていない」などなど、ありとあらゆる答えが返ってきます。

10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリル
『10歳からの考える力を伸ばす 名画で学ぶ作文ドリル』(かんき出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

あまりに理由が面白すぎて、みんなで読んで爆笑することもあるほど、個性豊かな記述解答ができ上がるのです。こうして楽しく記述をしているうちに、創造力はもちろんのこと、21世紀の新学力である思考力・表現力もぐんぐん伸びてきます。

親御さんたちは、「高い偏差値をとるための読解力と記述力を身につけさせたい」とよくおっしゃいますが、実は、そうした力が高まるのは、読書と作文の「副産物」であって、まず子どもたちの中に育てるべき力は、物語の登場人物の気持ちに寄り添い共感する力や、主人公が直面する課題を自分のこととして捉え複数の問題解決策を思いつく力、さらには、そうした自分の気持ちや意見を人に伝えるコミュニケーション能力、などといった非認知能力なのです。

「読解テストで高得点をとる技術」は、人生の前半ですぐに不必要になる受験のためだけの力ですが、非認知能力は、子どもの人生を豊かで幸せにしてくれる一生ものの財産です。そして、非認知能力が高まると、心配せずとも認知能力は自ずと、しかも驚くほどに伸びてくることを、私の教室で育った生徒たちがすでに実証してくれています。

久松 由理 イデア国語教室主宰

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ひさまつ ゆり / Yuri Hisamatsu

合同会社イデア代表。イデア国語教室主宰。若者の国語力が年々低下していくことに危機感を抱き、正しく読み書きができる子ども、自分の頭で考え抜く子どもを育てようと、2010年に読書と作文の個別指導塾を開く。元報道記者の経験から編み出した「文章力開発メソッド」と「観察力トレーニング」で生徒たちの記述力・読解力を大躍進させ、6人分の机しかない小さな教室から難関校に続々と合格者を輩出。現在は東京・三田校と高知校を拠点に国語の個別指導を行う傍ら、「幸せになるための国語」を広める講演活動や、企業の新人研修などを行っている。著書に『国語の成績は観察力で必ず伸びる』(かんき出版)がある。

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