歌舞伎町タワー・共用トイレ炎上で見えた課題3つ 多様性に配慮した結果、かえって使いづらく

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3つめは、ジェンダーレストイレの取り組みの説明が、多くの利用者に届いていなかったことです。このような新たな取り組みに関する意図やピクトグラム、配置などがわからないことが不安につながっています。

トイレは年代を問わずすべての人が利用します。しかも、1日に何度も使用するので従来の方法が習慣化しています。その仕組みを突然変更することは容易でありません。

日曜日の午後3時ごろに歌舞伎町タワーを訪れてみると、2階のフロアは大勢の人でにぎわっており、トイレはつねに多くの人が行き来していました。

現場のトイレには、張り紙で「ジェンダーレストイレについて」という説明がありましたが、ほとんどの人はそのメッセージに気づかないと思います。ジェンダーレストイレのピクトグラムについても、標準化されたものがあるわけではなく、知られていないため、個室の周辺で右往左往する人がいたように感じました。

同行した女性に感想を聞いてみたところ、「性別を問わず多くの人がいれば恐怖はないが、タイミングによっては男性だけの中に女性が1人になることもあるので、そのときは怖い」と言っていました。また、トイレ掃除をしている男性がひっきりなしに個室を移動しながら清掃していたのですが、それも少し気になったようです。

私は「トイレに大切なことは何ですか?」と聞かれることが少なくありません。そのとき、「安心」と答えています。

排泄は自律神経のなかでも副交感神経が優位になっているとき、つまりリラックスしているときに機能するため、不安な状態だと排泄どころではないからです。

安心というのは主観的なことであり、1人ひとり異なるので、すべての人が安心できるトイレをつくるのは現実的ではありませんが、そこを目指すことが大事です。また、「安心」とセットで用いられる言葉に「安全」があります。安全は客観的に判断されることが重要です。

この考え方からすると、トイレは危険な状態を徹底的に避けて客観的に安全と思われる状態をつくり、そのうえで1人ひとりが安心できるように工夫を重ねることが求められます。

世界トップレベルのトイレに

ジェンダーレストイレもしくは共用トイレは、トランスジェンダーの人や親子、異性による介助の人などにも必要なトイレです。平時も災害時も設けている必要があると考えています。

そういった意味で、東急歌舞伎町タワーでジェンダーレストイレを積極的に取り入れようとする姿勢は大事です。ただ、ジェンダーレストイレを導入する際は、その前提としてリスクマネジメントが必要です。

また、トイレにはわかりやすいデザインが不可欠です。それは、トイレまでの導線や混雑時の待ち行列のつくり方だけでなく、トイレ内の洗浄ボタンなどの操作についても同様です。高齢者や視覚障害者、子ども、外国人などにとって、説明がなくてもわかるようにすべきです。個室内が暗ければわかりにくいことも考えられます。

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日本のトイレは清潔や設備機能に関しては、世界でもトップレベルですが、わかりやすさやバリアフリー、リスクマネジメントという点では、まだまだです。

これからさらに海外から訪れる人が増えていくと思います。安心できるトイレには、清潔・安全・バリアフリーが必要です。今後の歌舞伎町タワーのトイレのさらなる進化に期待します。

加藤 篤 日本トイレ研究所代表理事

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かとう あつし / Atsushi Kato

まちづくりのシンクタンクを経て、現在、特定非営利活動法人日本トイレ研究所代表理事。災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業などを展開している。「災害時トイレ衛生管理講習会」を開催し、災害時にも安心して行けるトイレ環境づくりに向けた人材育成に取り組む。排泄から健康を考える啓発活動「うんちweek」を展開。循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)、東京都防災会議専門委員(東京都)など。著書は『もしもトイレがなかったら』(少年写真新聞社)、『うんちはすごい』(株式会社イーストプレス)など。

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