配信大手の本気で変わる「スポーツライブ」中継 資金力で圧倒、那須川天心ボクシングデビューも

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エンターテインメント番組のライブ配信は、今や世界の会員数がNetflixと並ぶDisney+も試みている。アメリカ限定だが、レギュラー番組の「Dancing With The Stars」で初のライブ配信を2022年9月から開始した。同番組は人気を集めるダンスリアリティショーとして知られ、審査員と視聴者の投票で勝ち抜き戦が行われるのが特徴としてある。

このルールを生かして、アメリカとカナダの視聴者はリアルタイムで投票できるようになったのも新しい試みとなり、同時視聴の価値を高めている。現在Disney+でライブ配信されているのは同番組だけだが、ライブ配信されるリアリティショーが今後増えていく可能性は高い。

シニア層の視聴者を切り捨てる

これは、目新しさがある一方で、シニア層の視聴者を切り捨てる動きとも見られている。なぜなら「Dancing With The Stars」はこれまで16年間、米ABCで放送されていたのにもかかわらず、Disney+に完全移行したからだ。

ニールセンによると、同番組がテレビ放送されていたときの視聴者の年齢の中央値は63.5歳だったという。これに対して、Disney+の米国内加入者のうち55歳以上は9%に過ぎない。新たにDisney+に加入せざるを得なくなった番組ファンは多かったはずだ。番組ターゲットだった視聴者の大半が困惑したかもしれない。

また幅広い層から人気を得ていた番組がテレビから配信メディアに引っ越したからといって、若年層をすぐにでも取り込めるわけでもない。米国内のDisney+加入者の23%は18~34歳が占めるが、「Dancing With The Stars」がテレビ放送されていたとき、この層は番組の視聴者層のなかで最も低い割合だったことからも、シニア向けコンテンツというイメージを払拭させるには時間がかかる。

そうまでして本拠地を変えたのはなぜか。推測に過ぎないが、今後のライブ配信の可能性に懸けたと考えるのが妥当だ。人気番組を犠牲にしてまで実績を積み重ねて、差別化を図っていく必要性を感じているのはディズニーだけではないだろう。

ライブそのものは決して新しいものでもなく、土曜の夜にスタンダップショーをリアルタイムで視聴するのも、勝ち抜きバトルを番組ファン同士が楽しむ体験そのものも新しいわけではない。追っかけ再生やリアルタイム投票などの機能に便利さを感じるものの、ライブ配信コンテンツならではの番組づくりや演出はどこもまだ模索中だからこそ、実験的な試みが行われている。

ストリーミングよりもテレビを根強く好む層は世界的に多く、スポーツの競技団体やコンテンツホルダー側からしてみれば、正解を探っている時期でもある。現在のファンのニーズを満たしつつ、次世代のファンも育成していくとなると、テレビと配信のどちらか一方を選ぶだけでは心もとない。

テレビだったら間違いなく盛り上がるとは言い切れない時代になり、成長段階の配信メディアでブームを作り出すにはもう少し策を練らなければならない。前向きに考えれば、作り手にとっては可能性を試す機会にもなるだろう。ライブ配信の面白さの追求はまだ始まったばかりなのである。

長谷川 朋子 コラムニスト

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はせがわ ともこ / Tomoko Hasegawa

メディア/テレビ業界ジャーナリスト。国内外のドラマ、バラエティ、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、テレビビジネスの仕組みについて独自の視点で解説した執筆記事多数。最も得意とする分野は番組コンテンツの海外流通ビジネス。フランス・カンヌで開催される世界最大規模の映像コンテンツ見本市MIP現地取材を約10年にわたって重ね、日本人ジャーナリストとしてはこの分野におけるオーソリティとして活動。業界で権威ある「ATP賞テレビグランプリ」の「総務大臣賞」の審査員や、業界セミナー講師、札幌市による行政支援プロジェクトのファシリテーターなども務める。著書は「Netflix戦略と流儀」(中公新書ラクレ)。

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