「沖縄のヤンバルクイナを守る」意外なAI活用法 地元の通信会社が尽力、自然保護プロジェクト

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10期連続の増益、21期連続の増配を達成した沖縄セルラー。2023年3月期の第3四半期決算では営業収益を上方修正、さらに自己株式の取得総額の上限を30億円から40億円へ増額することを発表した。このような持続的な成長は沖縄生まれの総合通信会社として“地元に全力!”で事業を展開してきた結果だが、その姿勢は今も変わらない。22年には、沖縄が抱える社会課題解決のための新プロジェクトが相次いで始動した。その全貌を紹介しよう。

ヤンバルクイナを捕食するマングースが沖縄の社会課題に

豊かな森が広がり多様な生物が人々と共生する沖縄島北部、通称"やんばる"地域。2021年7月には奄美大島や徳之島、西表島と合わせ、ユネスコの世界自然遺産に登録された。しかし、ここやんばるには、地域の生物多様性を脅かす外来種が存在する。代表例は、ヤンバルクイナやオキナワトゲネズミなどの希少な種を捕食するマングースだ。

沖縄県は00年、環境省は01年からマングースの防除事業をスタート。わなを仕掛けてマングースを捕獲するとともに、やんばるの南側にラインを設定してマングースの北上を防ぎ、ヤンバルクイナの生息域回復を目指してきた。07年度には619頭のマングースが捕獲されたが、20年度は33頭まで減少。防除事業が相当の成果を上げていることがわかる。

ヤンバルクイナ
国の天然記念物に指定されているヤンバルクイナ

ただ、捕獲数が減少するにつれて、より精緻な計画に基づいてわなを仕掛ける必要性が生じてきた。現在、マングースのわなは140カ所にある。そのうち半分にセンサーカメラが備え付けられ、マングースがわなにかかった瞬間に自動で撮影を行う。マングースがどんな動きをしてわなにかかったのか、ほかの動物ではなく確実にマングースなのかを確認して、改善に生かすためだ。

撮影した画像はカメラ内蔵のSDカードに記録され、防除事業の担当者がわなの設置場所を巡回して回収する。ひと月に撮影される画像の数は膨大で、多い月には6万枚を超えることもある。それをベテランの担当者が目視で判別して記録をつけるが、その作業だけで丸3日を要していた。

こうした状況の下、とくに近年は社会全体が人手不足に陥っていることからも、作業の効率化が喫緊の課題とされた。限られた時間の中で、データ解析やフィールドワークに多くの時間を割き、より精緻な防除計画を立てるためだ。

沖縄セルラーが取り組むAI活用正解率は85%前後に到達

沖縄セルラー 渡真利 光訓
沖縄セルラー
営業本部 ソリューション営業企画部
ソリューション営業推進グループ
課長補佐
渡真利 光訓

この課題の解決に名乗りを上げたのが、沖縄セルラーだ。22年3月、同社が展開する「おきなわ自然保護プロジェクト」第2弾として、マングース画像自動判別システムを構築して提供したのだ。プロジェクトメンバーの渡真利光訓氏は次のように解説する。

「これまで目視で確認していた画像を、まずAIで解析します。試行錯誤しながらデータを蓄積した結果、AIの正解率は85%前後に。多少の誤認識や見逃しは生じますが、その可能性のある画像を含め、目視で確認すべき画像を約10分の1にまで絞り込めるようになりました。省力効果がさらに大きいのは、記録作業です。従来は手作業でつけていた記録をシステムで自動化。3日かかっていた作業が1日で終わり、浮いた2日を本来の保全活動に費やせるようになりました」

さらに効率化を進めるため、現在、カメラを通信機能付きのものに切り替え、クラウド経由で画像を解析する実証実験を始めている。

マングース撮影の様子

「IoTを活用することで、SDカード回収のためにわなを巡回する必要がなくなり、また捕獲できたかどうかがリアルタイムで確認できます。さらにカメラの死活監視によって画像の撮影漏れを軽減でき、より効率的な防除に貢献できます」

「沖縄のために」で始まった挙手制の社会貢献部

通信事業者である沖縄セルラーが、なぜこのような活動をしているのか。同社は1991年、沖縄の経済振興と産業育成を目的に、KDDIと沖縄の有力企業を中心とした四十数社が参画して誕生した。そうした経緯から、設立以来ずっと"沖縄ファースト"の理念の下に事業を展開してきた。

そんな沖縄セルラーが、2021年、沖縄への思いを結晶化させて新たに設立したのが「社会貢献部」である。これまでも同社は社会貢献活動をしてきたが、社会貢献部には従来の活動と異なる特徴が2つある。まず、予算の原資が「株式配当の1%相当」であること。つまり会社の業績が伸び、株式配当額が増えるほど、社会貢献活動の予算も充実する。

沖縄セルラー 本社

もう1つは、メンバーの挙手制かつ兼務で運営されていること。応募は通年で受け付けているが、設立当初は社内から打診が殺到。「近所の子ども食堂に寄付したい」というストレートな社会貢献から、本業の通信事業と絡めた大がかりなものまで、1日10人以上の相談があった。前出の渡真利氏も、手を挙げた一人だ。

「普段はソリューション事業で営業を担当し、KDDIのDX部門『KDDIデジタルゲート』と協議して、お客様の課題をテクノロジーで解決する提案も行っています。やんばるの自然保護に対しても、デジタルを使ったソリューションを提案できるのではと考えて応募しました」

渡真利氏らの提案で立ち上がったのがおきなわ自然保護プロジェクトだ。第1弾は、21年11月、希少動物を捕食する野良犬や野良猫の捕獲機のIoT化。大宜味村と協業して、動物が捕獲されると自動で通知が届く仕組みを構築した。これらの取り組みを通してやんばる地域の北部3村や沖縄県、環境省との縁がさらに深まり、第2弾のマングース対策プロジェクトにつながった。

おきなわ自然保護プロジェクトを受けて、新たな取り組みも立ち上がっている。ドローンを用いた通信基地局の自動点検だ。

沖縄セルラーは県全域に通信基地局を設置しており、その中には高さ50メートルに及ぶ鉄塔もある。従来は作業員が鉄塔に登り、塩害でさびついていないかどうかを点検していた。

鉄塔型基地局の点検作業

「1つの鉄塔に作業員2~3人で登り、5時間かけて写真を撮影していました。高所作業を伴うことから、徹底した安全管理が必要となります。また高所作業の技術を有した作業員の確保も課題となっており、以前から技術本部でドローン活用が検討されていました。私たちが社内でマングース対策プロジェクトの成果発表を行ったところ、技術部門から『ドローン撮影とAI画像判別を組み合わせたら面白いのでは?』と提案があり、組織横断でチームをつくりました」(渡真利氏)

沖縄セルラー 冷水 晴香
沖縄セルラー 営業本部
ソリューション営業部
営業1グループ
冷水 晴香

22年11月に実証実験をスタート。入社2年目でマングース対策プロジェクトから開発者としてメンバーに加わった冷水晴香氏が、現在の課題をこう解説する。

「AI画像解析には、品質が担保された画像の取得が必須です。そこでドローン専業のグループ会社に相談して、オートフライト(自律飛行)機能を利用した画像撮影を行うことでその点をクリアしました。色を特徴点としてさびの有無や進行度を見極めたいときに、マングース対策で作った個体を識別するためのAIはそのまま使えません。鉄塔のさびと背景として撮影された地面の土の色が似ているため、認識のアルゴリズムを調整し、精度を高められるかが課題です。現在、よりよいものにするべく改良中です」

社会貢献プロジェクトがDXのロールモデルに

ボトムアップでスタートしたこれらのプロジェクトだが、会社の経営戦略にも合致している。沖縄セルラーは22年10月、中期経営計画(22年4月からの3カ年)を公表した。中計では、事業戦略として「通信を核とした両利きの経営」(既存事業の深化と成長領域の拡大)を打ち出した。このうち成長領域は「エネルギー事業の推進」「ソリューション事業の推進」「事業創造による沖縄の社会課題解決」の3つに注力。中でも期待が大きいのは、法人顧客の課題を解決するソリューション事業だ。

実は沖縄は他県と比べて、DXが遅れ気味とされる。沖縄県DX推進本部の調査によると、クラウドサービス利用状況は47都道府県中44位で、労働生産性に至っては最下位だ。ただ、裏を返すと、DXの潜在的な市場は大きく、今後爆発的に伸びる可能性を秘めている。

ソリューション事業を展開するに当たっては課題もある。地元出身の冷水氏は、沖縄の県民性についてこう明かす。

「ECで商品を注文しても、沖縄は到着するまでに数日長くかかります。不便な環境にある意味、慣れているので、『デジタルで課題を解決する』と言ってもイメージが湧きにくいのです。まずはDXのロールモデルを示す必要があり、私たちのプロジェクトがそうなりたいと考えています」

自治体や国、企業の課題をIoTやAIなどで解決できることを示せば、それをヒントに企業もDXを推進しやすくなる。実際、ドローンによる自動点検の発表後、「うちでもできないか」と打診があったという。

イメージが喚起されるのは社内も同じだ。「これまでは当社自身、沖縄セルラーのDXを定義しきれていないところがありました。しかし、プロジェクトを重ねる中で、私たちの強みである通信を軸に、さらにAI解析やドローンなど最新のテクノロジーを付加するスタイルが確立されつつあります。"DX for OKINAWA"を合言葉に、今後はもっとわかりやすくDXをお伝えできるはずです」と、渡真利氏は力強く語る。

成長領域の事業の売り上げ

現在、成長領域の事業の売り上げは100億円規模。沖縄セルラーはこれを3年で150億円規模に拡大させる計画だ。3年で1.5倍というチャレンジングな目標だが、その実現に向けて、確実な一歩を踏み出している。

※出典:令和3年度第2回沖縄県DX推進本部会議
 「沖縄県DX推進計画(骨子案)」2022/2/4時点版
 

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