「沖縄で長年トップシェア」続ける通信会社の秘密 50億かけて東シナ海に海底ケーブルを敷く理由

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9期連続の増収増益、20期連続の増配の「3増」を続けている沖縄セルラー。2022年3月期の第3四半期決算では、営業収益、営業利益ともに予想を上方修正。営業利益は前年同期比で12.2%増となっており、まさに絶好調だ。長期にわたって好業績を上げ続ける背景には、沖縄生まれの通信会社として掲げてきた「沖縄ファースト」の精神があった。

30年貫いてきた「沖縄ファースト」の中身

南国の沖縄とはいえ肌寒さを感じるようになった2021年12月。沖縄市の展示施設「沖縄アリーナ」には、大勢の家族連れの姿があった。子ども向け職業・社会体験イベント「Out of KidZania in おきなわ」が2日間にわたって開催されたのだ。会場には沖縄の企業や団体が勢ぞろいし、さまざまなプログラムを提供。コロナ禍で外出機会が減っていた子どもたちにとっては、一足早いクリスマスプレゼントになった。

このイベントに特別協賛として名を連ねたのが、沖縄セルラーだ。同社の菅隆志代表取締役社長は、経緯を次のように明かす。

代表取締役社長
菅 隆志(すが たかし)

「当社は、昨年30周年を迎えました。お世話になっている県民の皆さんに何か還元できないかと社員からアイデアを募った結果が『子どもたちの職業体験』でした。特別協賛という立場を選んだのは、当社の宣伝が目的ではないから。費用対効果という尺度ではなく、あくまでも『県民ファースト』で考えた結果です」

沖縄セルラーは、なぜ沖縄ファーストを貫くのか。それには同社の設立経緯が深く関係している。

1990年、沖縄の経済振興について議論するため、本土や沖縄の財界人が集まって「沖縄懇話会」をスタート。KDDIと沖縄の有力企業を中心とした44社が株主として参画し、沖縄セルラーが誕生した。

つまり沖縄セルラーは、そもそもの設立経緯が「沖縄ファースト」だったのだ。

地域への集中投資が高シェアにつながった

「沖縄ファースト」という設立当初からの理念は、結果的に同社の事業成長にも大きく貢献している。

「沖縄セルラーは、経営リソースのすべてを沖縄に集中投下できます。実際に、後発ながらかなりのスピードで基地局を建てて、通信エリアを拡大してきました。また、専売ショップ(現au Style/auショップ)も数多く出店して、どの世代の方にも安心して使っていただける体制を整えました。県民の皆さんの生活や利便性をいちばんに考えて進めてきたこれらの取り組みが支持された結果、早期から高いシェアを取れたのだと考えています」

県民からの高い評価は、今も変わらない。同社が提供するauとUQモバイルの総契約数は、74万に達した※1。沖縄電力との協業で「auでんき」を展開するライフデザイン事業も右肩上がりで契約数が増え、7万3000契約に達している※2ほか、FTTH事業※3も堅調だ。

※1 沖縄セルラー調べ。2021年12月時点
※2 沖縄セルラー調べ。2021年12月時点
※3 基地局から各家庭まで、光ファイバー回線を利用して回線を引き込むこと。Fiber To The Homeの略

災害から県民の生活を守るため、50億かけて敷設した大容量の海底ケーブル

こうして沖縄セルラーは創業以来、30年にわたって県民との間に「信頼」という資産を築いてきた。ただ、これにあぐらをかくつもりはない。現在も「沖縄ファースト」を胸に、積極的な投資を行っている。

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沖縄セルラーが敷設した、沖縄と本土を結ぶ海底ケーブル。既存の東ルート(太平洋側に)と合わせて、東西2ルート化が実現した

同社が敷設し2020年4月から運用した新しい海底ケーブルは、その象徴的な事例だ。本土と沖縄を結ぶ海底ケーブルは、従来、太平洋側に2本引かれていた。それに対して、鹿児島県日置市と沖縄県名護市を結ぶ新しい海底ケーブルは、東シナ海側。その狙いを菅社長はこう明かす。

「南海トラフ地震が発生すると、太平洋側のケーブル2本がまとめて切断されてしまうリスクがあります。通信インフラが途絶えて沖縄が孤立状態になれば、県民の生活や経済が大きなダメージを受ける。インフラの冗長性を確保することが、私たちの使命だと考えました」

新海底ケーブルの全長は約780キロメートル、同社の投資金額は約50億円超に及ぶ。災害時に、沖縄県民の生活に降りかかるリスクをどう減らすか。「沖縄ファースト」に基づいて考え抜いたからこその、大きな経営判断だった。

新海底ケーブルの敷設には、もう1つの狙いがある。5Gへの対応だ。

「当社は2022年3月までに、5Gの本島内人口カバー率90%を達成したいと考えています。この計画がスムーズに進み、今後5Gが一般的になれば、ユーザー1人当たりのトラフィック量はこれまでの数倍に増えるといわれています。大容量の新海底ケーブルは、まさに5G時代にふさわしいインフラだと胸を張って宣言できます」

5G時代にふさわしいインフラ。その具体的なメリットは、ユーザーにはあまりピンとこないかもしれない。しかし、大量のトラフィックに対応できる新海底ケーブルは、県民の生活に確実に恩恵をもたらすはずだ。

例えば、沖縄の課題の1つにヘルスケアがある。古くから長寿県として知られ、健康的なイメージが強い沖縄だが、定期健康診断の有所見率(何らかの異常があった人の割合)は2020年まで10年連続で全国最下位だった※4。沖縄セルラーは県民の健康問題を解決するため、数年前からヘルスケア事業に参入している。スマホアプリでオンライン診療、服薬指導を実施した後に、コンビニ設置ロッカーで処方薬を受け取れる実証事業も始まった。

「5Gなら、ドクターが患者の状態をより鮮明に見て、診断を下すことができる。県民の皆さんにも、これから日常生活のさまざまな場面で、5Gのメリットを感じていただけるのではないでしょうか」

※4 出典:沖縄労働局

通信会社がスマートビル運営に乗り出した理由

災害対策と5G対応。沖縄セルラーは、企業が抱えるこうした課題を解決する手段として、スマートビルの建設にも着手している。2021年11月に竣工した「沖縄セルラーフォレストビル」(フォレストビル)だ。

これは、賃貸オフィス、都市型データセンター、コワーキングスペースを併設した複合型ビル。沖縄セルラーが手がけたビルだけに、もちろん全館で5Gを利用可能だ。沖縄県庁や中心ビジネス街に至近でアクセスも抜群だが、強調したいのはBCP(事業継続計画)対応である。

「震度6強クラスの地震でも、建物をほぼ無被害にとどめられる免震構造を採用しています。また、異なる変電所から2系統で電気を引いて冗長性を確保。両方止まってしまった場合でも、非常用発電機を使って、72時間ノンストップの電力供給が可能です」

もちろん、強みは災害対策の側面だけではない。データセンターは生体認証や共連れ防止装置をはじめ、堅牢なセキュリティーを実装。また何かしらの障害が発生しても、オフィスとデータセンターが同じビル内にあるため、迅速に対応できる。オフィスとデータセンターはそれぞれ単独で利用できるが、併用すればBCPはより強固なものになるだろう。

沖縄はまだまだ伸びる余地がある。事業発展をベースに、これからも沖縄経済の発展に貢献していく

環境への配慮も十分だ。同種のビルと比較して、フォレストビルのCO2排出量は約2分の1とされる※5。オフィスフロアの窓には自動で動く日よけが設置され、電力消費を抑えながら沖縄の強い日差しを防いでいる。またビルの中央部分は吹き抜けになっており、ここに地下水を散布して室内の空気を冷やす「クールボイド」が国内で初めて採用された。

そして2022年2月には、ビル内にコワーキングスペース「Mangrove」がオープンした。沖縄県民はもちろん、本土から出張してきたビジネスパーソンの利用も予想されている。

通信会社である沖縄セルラーが、なぜこのスマートビルを建てたのか。背景にあるのは、やはり沖縄への強い思いだ。

「沖縄は昭和時代から人口が増加し続けている※6うえ、若年層も多い。市場として高いポテンシャルを秘めた県です。ご存じのとおり自然環境が豊かで、独自のカルチャーもあり、ワーケーションやリモートワークにも向いています。IT環境の整備は、沖縄をビジネス面でさらに飛躍させる方法の1つ。ぜひ多くの方に利用いただき、沖縄経済を盛り上げていきたいですね」

創業以来、つねに沖縄ファーストを貫き、成長してきた沖縄セルラー。その姿勢が揺らがない限り、今後も沖縄県民とともに成長を続けていくに違いない。

※5 沖縄セルラー調べ
※6 出典:沖縄県企画部統計課「沖縄県の人口と世帯数」(令和3年6月25日)
 

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